膠原病は全身に様々な症状を呈する疾患です。現時点で根治療法はありません。関節リウマチが代表的な疾患ですが、他にも全身性エリテマトーデス、多発性筋炎/皮膚筋炎、全身性強皮症など多岐にわたります。その特徴は一言で言えば“つかみどころのなさ”にあります。
膠原病は代表的な自己免疫疾患です。免疫は体の外から侵入するウイルスや細菌を攻撃するのが本来の姿ですが、何かのきっかけによって自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまうことがあります。遺伝的に免疫バランスが乱れやすい人や、妊娠・出産によって大きく免疫バランスの変化が生じる女性に発症しやすいことがわかっていますが、一方で長寿命化したことによる免疫の老化に伴って高齢での発症が増えているという現実もあります。
こうしたわかりにくさが“つかみどころのなさ”につながり、医療従事者の中でも認知度は高くないのが現実です。現在でも膠原病を専門とした講座をもっている大学は約半数に過ぎず、結果として専門医も大幅に不足しています。若手の研究者・臨床医の育成は、わが国の大きな課題となっています。
膠原病では様々な臓器の機能の低下に加えて、不適切なステロイド使用による副作用によって生活の質が徐々に低下していくリスクもはらんでいます。そのため、社会的影響が大きい疾患といえるでしょう。次々に分子標的薬が新たに開発され、脱ステロイドが急速に進んでおり、専門治療の重要性が大きくなっています。
私が膠原病に関心を持つようになったきっかけは、学生時代の講義で自己免疫という不思議な現象を知り、「なぜなんだろう」という純粋な興味を抱いたことでした。
現在ではCOVID-19による感染症の拡大、ワクチン接種の普及に伴い、一般の方の免疫に対する関心もずいぶんと高まりましたが、それでも学問的にはまだまだわからないことだらけです。一つのことがわかると新たな疑問点が浮かび上がってくることの繰り返しで、奥の深い分野だと実感します。
私のもとへは全国から専門医療を求めて患者様が受診され、中には遠方から飛行機で通われている方もいます。そうした患者様の体の中で免疫がどんな動きをしていてるのかを、臨床とともに研究で解き明かしていくことに興味は尽きず、学生時代の「なぜなんだろう」という思いは今も変わっていません。
臨床と研究は、医療人にとってクルマの両輪です。私たちは目の前で膠原病に苦しむ患者様を起点として研究に取り組むことで、新たな治療法や薬剤の開発に貢献しています。これから一緒に学んでくださる皆さんには、まずご自分の好奇心の赴くままにテーマを見つけ、掘り下げていただきたいと思います。もちろん研究が常に思い通りに進むとは限りません。失敗もあります。その中でモチベーションを持ち続けるには好奇心が何よりも大切でしょう。その結果得られた成功体験こそ、医療人としての大きな財産です。
日本医科大学付属病院リウマチ膠原病内科/強皮症・筋炎先進医療センター 部長
1988年 | 慶應義塾大学医学部卒業 |
1992年 | 慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了 |
1993年 | ピッツバーグ大学リウマチ内科ポストドクトラルフェロー |
2000年 | 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所専任講師 |
2006年 | 慶應義塾大学医学部内科(血液感染リウマチ)助教授 |
2007年 | 慶應義塾大学医学部内科(リウマチ)准教授 |
2014年 | 日本医科大学大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 |