かつては“不治の病”だった白血病も、今や“治る病気”に。
その臨床の進化を支えているのが血液内科での研究です。国内トップクラスの治療実績を誇る日本医科大学の血液内科では、がん治療のさらなる進化をめざして研究に取り組んでいます。
遺伝子異常を経て発生する血液のがんである白血病は、人のがんの中においては最も研究の進んだ分野です。慢性骨髄性白血病に見られる染色体の異常であるフィラデルフィア染色体が発見されたのは、1960年という早い時期でした。近年は基礎的な研究に加えて臨床治療研究が進んだことで、慢性骨髄性白血病では発症後5年で97~98%が生存するようになりました。かつて“死の病”だった白血病も、今では“死なない病気”になったのです。
日本医科大学血液内科は、1980年、野村武夫先生、檀和夫先生、厨真一郎(クリヤシンイチロウ)先生が招聘されたことで誕生しました。翌年、第三内科臨床研修医となった私は生化学第一専攻で血液内科を学び、米国の国立公衆衛生院(NIH)に留学した際も臨床血液部門で学んだことから、この分野を専攻することになりました。当時の最先端の研究環境が整っていたことは大きな魅力でした。創始者の一人である野村武夫先生には多大なバックアップをいただき、私にとっては忘れることのできない大恩人です。
血液内科の魅力は、大きく分けて二つあります。
一つは、発症から治癒まで、一気通貫でがんの治療に携われることです。白血病に対して、骨髄移植も含め、治癒に至るまで患者さんの全身を知ることができ、非常に大きな達成感を得ることができます。同時に患者さんと徹底的に寄り添うことができるのも魅力あることです。
もう一つは、研究面です。血液内科では発がんに関係する遺伝子が早く見つけることができ、いち早く研究に着手できます。それが早期の治療につながっており、大きな魅力とっています。
現在、血液内科で取り組んでいるテーマは、大きく三つに分けられます。一つ目ががんの原因に関する研究で、二つ目ががんの腫瘍免疫に対する研究です。この二つが基礎研究で、三つ目のテーマが白血病の分子標的治療薬の臨床研究です。
フィラデルフィア染色体によって構成されるbcr-ablは慢性骨髄性白血病の原因遺伝子と証明されいますが、何種類もあるabl融合遺伝子陽性白血病に関しては未だその造白血病分子機構の詳細は不明であり、研究ではその病態解析に取り組んでいます。また、MLL/AF4陽性ALLへの遺伝子治療の研究を行っています。
先天性角化不全症(DKC)の原因遺伝子であるテロメア制御遺伝子の変異が、一部の再生不良性貧血(AA)や骨髄異形成症候群(MDS)に認められ、特徴的身体所見を伴わず緩徐に発症する不全型DKCの存在を明らかにしました。現在はBMFにおけるDKCおよび不全型DKCのスクリーニング法としてテロメア長測定の意義や、次世代シークエンサーを用いたDKCの新規原因遺伝子の探索などを研究しています。
難治性の血液腫瘍の患者さんに、副作用が少なくて効果が得られる免疫治療ができないかと考えてスタートした研究です。現在は多発性骨髄腫と骨髄異形成症候群において腫瘍細胞上に発現する免疫関連分子の発現を解析し、様々なアプローチから病態との関連を明らかにし、さらに免疫治療への応用を目指しています。
がんの増殖や転移に必要な分子を標的に定めて抑える分子標的治療薬であるTKI(チロシンキナーゼ阻害薬)について、その治療成績のさらなる改善に向けた研究を行っています。前述の通り慢性骨髄性白血病は治療5年で97~98%が生存する病気となりましたが、生活の質(QOL)の低下など問題が残っています。これらの課題の解決に向けた研究を続けています。
日本医科大学 大学院医学研究科 血液内科学分野 大学院教授、付属病院血液内科部長
日本医科大学知的財産推進センター 知財センター長
日本医科大学 遺伝子組み換えDNA実験安全委員長
1981年 | 山形大学医学部卒業 |
1981年 | 日本医科大学付属病院第三内科臨床研修医 |
1982年 | 日本医科大学大学院生・生化学第一専攻 |
1986年 | 日本医科大学大学院医学研究課修了 |
1987年 | 日本医科大学付属病院第三内科 医員 |
1992年 | 日本医科大学 講師 |
1999年 | 日本医科大学 助教授 |
2004年 | 日本医科大学 教授 |
2006年 | 日本医科大学付属病院生命科学センター長 |
2006年 | 日本医科大学 遺伝子組み換えDNA実験安全委員長 |
2008年 | 千葉北総病院 血液内科部長 兼 消化器内科部長 |
2013年 | 日本医科大学 血液内科 大学院教授、日本医科大学付属病院血液内科部長 |
2014年 | 日本医科大学知的財産推進センター知財センター長 |