血液内科学分野では、以前より急性骨髄性白血病(AML)と慢性骨髄白血病(CML)の研究を大きな核としています。また近年では骨髄異形成症候群(MDS)及び骨髄不全症の研究にも力を入れています。さらにこれら疾患に共通する研究として、遺伝子変異がそれぞれの疾患にどのように関与しているかを明らかにするためゲノム解析に取り組むとともに、それらをバイオマーカーとして臨床で活用することを目的とした研究も行っています。
“血液のがん”と呼ばれる白血病は、かつては不治の病として恐れられていました。著名人にも白血病で命を落とす方が多く、そうした報道が白血病は恐ろしいというイメージを後押しした面もあるようです。しかし状況は大きく変わりました。特にCMLの治療法は進歩が著しく、この病気の原因であるbcr-abl遺伝子をターゲットとする分子標的薬が開発されたことで、今では95%の患者さんを治せるようになりました。しかも入院の必要もありません。CMLと診断された患者さんは大きなショックを受けますが、現在では外来で渡された薬を飲むだけで治療することが可能で、そのことを知るとほとんどの患者さんが「すごい!」と驚きの表情を見せます。
このようにCMLは我々人類が史上初めてその原因を究明し、治療薬を開発したことによって制圧したがんとなりました。研究者にとって非常に夢のある分野と言えるでしょう。 血液のがん細胞は、他の固形がんと違って「生け捕りしやすい」点が特徴です。他のがん細胞は体外では死んでしまいますが、血液のがん細胞は採血して培養液の中で育てることができます。こうした点も研究の飛躍的な進歩の背景となりました。
AMLに対する遺伝子解析では日本医科大学附属病院は国内トップレベルにあり、全国の大学病院や基幹病院から遺伝子解析の依頼を受けています。私たちの患者さんだけにとどまらず、広く他の施設の患者さんの治療方針決定に貢献できていることも、ここで研究に取り組む誇らしさでしょう。
治療と研究が密接に関わっており、血液のがんだけが手術ではなく内科だけで治療できる点もこの分野の特徴です。私が血液内科の道に進んだのも、外科の力を借りず、最初から最後までがんの治療に携われる内科は血液内科しかないということが理由でした。 血液疾患は、どんなに絶望的な状況にあっても、時としてミラクルが起こりえます。私たちはそのことを経験的に知っており、それがとことん患者さんに寄り添いたいという強い思いにつながっています。だから苦しみ、あがき、決して諦めることなく、何とかしてミラクルを起こそうとするのです。そんな厳しさを乗り越えて得られる感動や喜びこそ、血液内科学で学ぶ最大の魅力でしょう。
がんの治療には原因を突き止めて治療法を開発する基礎研究が非常に重要です。ぜひ若い皆さんもこの分野での研究に取り組み、多くの患者さんに「すごい!」という驚きを与える喜びを知っていただけたらと思います。
2001年7月 | 米国国立衛生研究所 NHLBI Hematological Branch Visiting fellow |
2003年 | 日本医科大学 血液内科学 助教 |
2008年 | 日本医科大学 血液内科学 講師 |
2014年 | 日本医科大学 血液内科学 准教授 |
2022年 | 日本医科大学 血液内科学 大学院教授 |