がん治療のパラダイムシフトを起こした免疫チェックポイント阻害剤、オプジーボ。その開発に携わった経験と、全国有数のがん拠点病院である日本医科大学ならではのアドバンテージをいかして、細胞生物学研究室では、さらなる診断・治療法の開発に力を入れています。
研修医のときに、いつか自分の研究が医療の役に立つことを夢見て、臨床医をやめて研究の道を志しました。京都大学の本庶佑先生の研究室の門をたたき、大学院生としてはじめておこなった研究が、幸運にも新しいがん免疫療法に結びつきました。それが免疫チェックポイント阻害剤PD-1抗体(オプジーボ)です。オプジーボは逆転の発想により生まれました。
免疫システムにはアクセルとブレーキがあり、そのブレーキとして働くのがPD-1という分子です。車を例に考えてみますと、ブレーキがかかっていたらアクセルを踏んでも車は動きません。従来の免疫療法は、免疫細胞のアクセルを踏むことによって、がんに対する免疫力を高めようとするものでしたが、オプジーボは、免疫細胞のブレーキ(PD-1)を解除することによって、免疫応答のスイッチが入るように工夫しました。
PD-1抗体は、2014年に世界に先駆けて日本で新薬承認となりました。はじめて適応となった悪性黒色腫に続いて、肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がんの治療にも使われるようになり、今後さらに適応が広がることが予想されます。これまで長い間、がんの治療は手術、放射線、化学療法の3本柱からなっていましたが、免疫チェックポイント阻害剤の登場により、免疫療法が第4の柱となり、世界中でがん治療のパラダイムシフトが起こっています。研究活動を通じてこのような形で医療の進化に貢献できたことに、大きな喜びを感じています。
PD-1抗体は、他に治療法のない末期の進行性がんの約20~30%で治療効果を認め、画期的な新薬として注目されています。けれどもすべての患者さんに効くわけではありません。そこで私たちの研究室では、効く人を見分けられる診断法や、効かない人に対する新たな治療法の開発に取り組んでいます。
興味深いことに、免疫応答には個人差があります。例えばインフルエンザにかかっても、発熱する人もいれば、ほとんど症状の出ない人もいるように、がんに対しても、自己治癒力の高い人もいれば、がんへの免疫応答が起こらない人もいます。ワクチンの原理となる免疫記憶に関しても、長期間安定して続く人もいれば、すぐに記憶がなくなってしまう人もいます。このような個人差がどうして起こるのかということを、免疫細胞のエネルギー代謝に注目して解明したいと考えています。このメカニズムを解明できれば、万人に同じ方法で治療を行うのではなく、それぞれの体質に合ったオーダーメイドの良質な医療を提供することが可能になるのではないかと考えています。
全国有数のがん拠点病院である日本医科大学付属病院にはがん患者さんが非常に多く、臨床研究を進めるうえで大変恵まれた環境にあります。加えて、研究を重んじる長い歴史と伝統があり、非常にアカデミックな雰囲気の中で、臨床の医師との連携もスムーズで、私自身も大いに刺激を受けています。このようなアドバンテージを十分に活かしながら、より強力に研究を推進していきたいと考えています。
日本医科大学 先端医学研究所 細胞生物学分野/細胞生物学部門 大学院教授
1996年 | 東京医科歯科大学医学部医学科卒 |
1996年 | 東京医科歯科大学医学部附属病院研修医 |
2002年 | 京都大学大学院医学研究科博士課程修了 |
2003年 | 京都大学大学院医学研究科 助手 |
2004年 | ロックフェラー大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員) |
2007年 | 東京医科歯科大学難治疾患研究所 特任講師 |
2011年 | 東京医科歯科大学医歯学総合研究科 准教授 |
2013年 | 産業医科大学医学部 教授 |
2017年 | 日本医科大学 先端医学研究所 細胞生物学分野 大学院教授 |