優れた研究者は優れた臨床家でなければならないとの信念のもと、患者さんの声に耳を傾けることを大切にしながら、そこに内在する病と闘う力について研究する微生物学・免疫学教室。さらに丸山ワクチン、東洋医学、そしてエイズと、幅広いフィールドについて学びの対象を広げています。
ウィルスとは自然界が私たち人間に向けて放つ情報であり、私はこのウイルスを細胞の中に取り込むことで私達の進化・生長が促されるのではないかと考えています。微生物学・免疫教室では、そうしたウィルス群のみならず、細菌、寄生虫など、私たちを取り巻く環境由来の外的異物としての微生物群の特徴を知ると同時に、それらが引き起こす様々な疾病(感染症)について学習し、その制御に関わる抗ウィルス剤、抗菌剤などについて学ぶとともに、人体に内在する疾病と闘う力(生体防御免疫システム)について学習します。
一方、免疫をコントロールする中枢に位置する樹状細胞は、がんの免疫療法において注目されていますが、当教室ではその樹状細胞活性化能が、本学で開発された「丸山ワクチン」に存在することを突き止めました。さらに当研究室では、がん細胞のように人体が作り出す内的異物の実態やその制御システムについても学び、その制圧法である「腫瘍免疫」について「丸山ワクチン」も含め学習します。私自身、ワクチン研究施設の顧問として、「丸山ワクチン」の作用機序解明に独自に取り組んできました。
さらに、現在注目を集めている「免疫チェックポイント阻害剤」との併用効果にも着目し、がんに苦しむ患者さんを救うための新たな手法を日夜研究しています。以上に加え、私は免疫治療とも考えられる東洋医学専門医・指導医として付属病院東洋医学科の部長を兼務し診療に当たっており、漢方薬作用機序の解明に向けても精力的に取り組んでいます。本学学長であった故・丸山千里博士は、皮膚結核患者はがんになりにくいということに直感的に気づき、結核菌を煎じその毒性を消して抽出した糖脂質を主体とした物質の中に免疫活性化作用があると考え、「丸山ワクチン」を作られました。これはまさに漢方に通じる発想であります。
これまで多くの患者さんと出会い感ずることは、医師の役割は、病に苦しむ患者さんの治癒を手助けすることであり、本質的には病を患っている患者さんに内在する「自己治癒力」によって病から解放されるということです。この自己治癒力を、生涯をかけて学び続けることが医師の使命ではないでしょうか。基礎医学の研究はそのためにあり、医学研究者も本質的には患者さんの体内に存在する「自己治癒力を念頭に置いた臨床家」としての視点を持つべきだと考えています。
微生物学・免疫学教室の大学院生の大半は医師免許を有し、臨床に関わる臨床家であるため、自らが経験した「病に苦しむ患者さんを病から救いたい」という思いから研究に取り組んでいます。基礎研究と臨床が密接に関わり合っているという日本医科大学ならではの恵まれた環境の中、研究に取り組んでいます。そのため、教室員ならびに大学院生は、目的意識がはっきりとした集団であり、常に臨床を意識した形で研究に取り組んでいます。
優れた臨床医とは、物事の本質を感じ取ることのできる人材です。そのため常に患者さんの声に耳を傾けることができなくてはなりません。もちろん医師は医療を実践する技術者でありますが、研究という手法を学ぶことによって、患者さんの中に内在する真理を直感的に学ぶことが、患者さんを物質的な面だけでなく精神的にも救うことにつながると考えています。
患者さんの体内には疾病を治すための「自己治癒力」、すなわち「生体防御システム」という素晴らしい装置が組み込まれています。ぜひ皆さんもこの装置の実態を学習することで、病に苦しむ多くの人々を救ってください。研究活動を通じそのような自然界の真理に触れることは、こうした視野を広め、自身の成長を強く促すことにつながると確信しています。
日本医科大学 大学院医学研究科 微生物学・免疫学分野 大学院教授
日本医科大学付属病院 東洋医学科部長
1985年 | 日本医科大学 医学研究科博士(医学)課程修了 |
1987年 | 米国国立癌研究所 客員研究員 |
1997年 | 日本医科大学微生物学免疫学講座主任(教授) |
1998年 | 京都大学ウィルス研究所客員教授 |
2005年 | 日本医科大学付属病院東洋医学科部長(兼任) |
2013年 | 日本医科大学ワクチン療法研究施設 顧問 |