研究と臨床の両軸に足を置く 生化学・分子生物学(代謝・栄養学)分野 大石 由美子 大学院教授

フィジシャン・サイエンティストとして

医学の道を選んだ学生の皆さんの多くは、医者として患者様と直接向き合うことを志すことでしょう。もちろんそれは大変に尊い思いなのですが、一方で基礎医学を学ぶ研究者としての視点もぜひ忘れないでいただきたいと願っています。
私自身は生化学・分子生物学分野の研究者として日々、研究や実験に明け暮れながら、同時に週に一度は内科の医師として臨床の現場に立っています。研究と臨床はクルマの両輪であり、バランスよく両者を学ぶことで研究の成果を臨床に反映させ、臨床で得た気づきを研究にフィードバックするという好循環が可能になるからです。研究者と医師を兼ねるフィジシャン・サイエンティストは医学の発展に大きく貢献する存在であり、学生の皆さんにはぜひそうした存在を目指していただきたいと考えています。

図1

実は近年、領域によっては理学や工学、生物学といった他分野の専門家が(医学)研究の主役を務めるようになりました。残念ながら医師でありながら医学研究を続ける者は少数で、研究そのものについては太刀打ちできなくなりつつある現実があります。しかし臨床の現場で磨いてきた感性──患者さまのほんのささいな変化から重大な兆候を読み解く力などは、医師だからこそ持ち得るものです。その力を発揮していただくためにも、基礎医学の研究にもぜひ軸足を置いていただきたいと思います。
日本医科大学には学部の3年次に一定期間、研究に打ち込むことを義務づけられる研究配属という制度があります。その委員長を務める私はこうした取り組みを通じ、研究者が臨床の現場に立ち、臨床医が研究室に足を運ぶ、そんな状況を当たり前の日常として実現できたらと考えています。

図2

人間の生きる神秘を解き明かす

私たちの研究室では糖尿病・動脈硬化・サルコペニアなど加齢関連疾患の病態解明を主なテーマとしています。例えば2型糖尿病は慢性炎症を基盤として発症することがわかってきましたが、本来は私たちの体を守ってくれるはずの免疫がなぜ糖尿病を招いてしまうのか、まだわかっていません。人はなぜ眠るのか、そのメカニズムさえ、解明されていないのです。人間の生命は美しく、個体が恒常性を保つシステムは実に神秘的です。その美しさのバランスがどのようにして保たれているのか、細胞レベルで解き明かしていこうとする学問が、生化学・分子生物学です。ぜひ多くの皆さんに私たちの研究室での時間を通じて、基礎研究の意義と魅力を知っていただけたらと考えています。
研究に取り組むメンバーを指導する上で私が大切にしているのは、仮説を立て、それを検証するための実験を組み立て、実践し、その結果を考察することです。この思考回路を身につけることは、臨床においても大変に役に立ちます。また論理的思考をきちんと伝えるためには、文章力が非常に重要になります。研究室では主語、目的語の備わった正しい日本語で実験結果や論文を記述することに力を入れており、こうした学びも医学の道を歩いていく上で大変に意義あるものです。

教室のメンバーと根津神社にて

教室のメンバーと根津神社にて

プロフィール

大石 由美子大学院教授

        (生化学・分子生物学(代謝・栄養学)分野)

AMED-PRIME 「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究代表者
日本学術振興会 学術システム研究センター 主任研究員

1998年  群馬大学医学部医学科卒業。
内科・循環器内科医として国立病院機構高崎医療センター、財団法人日本心臓血圧研究会附属榊原記念病院に勤務
2006年  東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2007年  日本学術振興会特別研究員(PD)
2008年  東京大学院医学系研究科循環器内科特任助教
2009年  カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部(Dr. Christopher K. Glass 研究室)留学
2013年  東京医科歯科大学難治疾患研究所 細胞分子医学分野テニュアトラック准教授
2017年  テニュア取得
2017年  AMED-PRIME 「画期的医薬品等の創出を目指す脂質の生理活性と機能の解明」研究代表者
2018年  日本医科大学生化学・分子生物学(代謝・栄養学)教授
2018年  文部科学省 研究振興局 学術調査官