生体機能制御学分野では「オリジナルな研究を通じて真に医療に還元する」「臨床現場の課題を抽出して、新しい基礎研究課題を探索して解決する」をモットーに研究を行っています。具体的な研究テーマは次の4点です。
① がん2次予防(がん検診)に有用なバイオマーカーの開発と社会実装
② がん転移活性を予測し、再発を予防するバイオマーカーの開発
③ 液性バイオプシー検体を用いたがん病態診断マーカーの探索
④ 早期診断バイオマーカー検証プラットフォーム(P-EBED)によるバイオマーカーの探索と迅速な社会実装
がんの中でも早期発見が難しいのが膵臓がんです。早期発見が可能になれば生存率や死亡率の改善が期待されるでしょう。膵臓がんは、10万人に30人程度が罹患する疾患です。無症候の国民全体に造影CT検査、MRI検査や超音波内視鏡検査は現実的ではなく、より効率的で低侵襲な検査プログラムとして血液検査が考えられます。当研究室では膵臓がんの血液バイオマーカーを発見。膵臓がん検診の効率化に向けた大きな一歩を実現しました。既に体外診断用のバイオマーカーとして薬事申請しており、近い将来に本格的な社会実装の段階を迎えることになるでしょう。これが①の取り組みです。COVID-19の感染拡大によってがん検診を受ける人が激減する中、非接触型検診の機会を増やすという点でも血液バイオマーカーの発見は意義深いことです。
がん治療の成功には、再発の予防が重要です。手術で切除されても目に見えない転移巣が残存すると、術後再発の危険性が高まります。そこで当研究室ではがんの転移活性を評価するバイオマーカーを開発しました。これが② の取り組みです。
③ については、腫瘍細胞から逸脱して血液中を循環する末梢循環腫瘍細胞や未循環腫瘍DNAに着目し、末梢循環腫瘍細胞回収等のプロジェクトを進めています。
こうした新たなバイオマーカーが開発されても薬事承認に時間がかかれば、実用化は遅れてしまいます。創薬研究における「死の谷」と同様の問題があるのです。そこでバイオマーカーが臨床現場で早期に利用されることを目指し、臨床性能を迅速に評価する仕組みとして臨床医、オミクス研究家、レギュラトリーサイエンスの専門家、臨床統計家等と連携し、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて、「バイオマーカー迅速検証プラットフォーム(P-EBED)」を立ち上げました。これが④ の取り組みです。
がんは多彩な疾患で、病態は様々です。各人のがんの個性を的確にとらえることができれば、最適な治療戦略や効果的な予防法を個別に提供できる可能性があります。そうした目標のもと、当研究室では効果的ながん病態診断や早期診断を可能にするバイオマーカーの開発を推進しています。
研究プロジェクト4本の柱(出典:学校法人日本医科大学 広報誌「One Health」 Vol.542 2020 SEP号)
教育については、「ベンチからベッドへ」を目指すトランスレーショナル・リサーチだけでなく、臨床サイドのアンメッド・メディカル・ニーズ(いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)に応えるべく「ベッドからベンチへ」を目指すリバース・トランスレーショナル・リサーチにも積極的に参画し、基礎医学と臨床医学をシームレスにつなぐ研究者・医療人の育成を目指しています。学際的な知識と高い倫理観が求められる分野であるため、医学部だけでなく歯学、薬学、獣医学、看護学、理学、農学、工学など多様なバックグラウンドを持つ人材に対しても門戸を広げています。
基礎研究の醍醐味は、研究を通じて医療の新たなスタンダードの「タネ」を創造できることでしょう。自分の研究によって標準治療を変えていく、そんな志で当研究室のドアをノックしていただきたいと思います。最初の一歩を、踏み出しましょう。歩けば、道は拓かれます。
AMED革新的がん医療実用化研究事業 研究代表
AMED次世代がん医療加速化研究事業 研究代表
1998年 | 博士(医学)(東京医科大学) |
2001年 | 医薬品副作用被害救済・研究振興機構(現PMDA)ポスドク |
国立がんセンター | |
2002年 | 厚生労働技官 国立がんセンター研究所 |
2005年 | 国立がんセンター研究所化学療法部室長 |
2011年 | 国立がん研究センター研究所ユニット長 |
2019年 | 国立がん研究センター研究所早期診断バイオマーカー開発部門長 |
2020年 | 日本医科大学大学院医学研究科 生体機能制御学分野 大学院教授 |
1999年 | 佐々記念賞 |
2005年 | 日本分子腫瘍マーカー研究会学術奨励賞 |
2007年 | 田宮記念賞 |
2021年 | 高松宮妃癌研究助成金 |
2021年 | 今井浩三賞 |
2022年 | 日本プロテオーム学会賞 |