外科手術によって多岐にわたる循環器疾患を治療する心臓血管外科。いわゆる“匠の技”が重要であると同時に次代に向けた科学的な研究も不可欠な分野です。学術研究機関としての使命のもと、高度な専門性を有した人材の育成に取り組んでいます。
心臓血管外科における大学院生は、1年間の内、半年を研究に、残り半年を臨床に費やしています。これによって完全に研究だけに没頭できる環境が得られます。
現在行われている研究内容は以下の通りです。研究テーマは多岐に渡ります。いずれも現在の医療に直結する研究だけではなく、10年後、20年後の医療に大きく関与する研究が特徴です。目先の事象にとらわれず、常に未来を指向して研究に取り組むことが重要であると考えています。
主な研究テーマは以下の通りです。
①大動脈解離術後患者における偽腔血流と遠隔期解離性大動脈瘤形成の関連に関する4D Flow MRI解析の研究.大学院生が学位を取得(2021年度).Eur J Cardiothorac Surg. 2021 Nov 2;60(5):1064-1072.に掲載.
②冠動脈バイパス術後の心筋SPECTイメージングを用いた心筋血流・脂肪酸代謝の経時的変化についての研究.助教が学位を取得(2021年度).Annals of Nuclear Medicine 2021 Dec 13.
doi: 10.1007/s12149-021-01707-3.に掲載.
③オフポンプ冠動脈バイパス術におけるシミュレーショントレーニングに関する研究.
④心房細動手術後の左房血流の解析.
⑤周術期自律神経機能と術後心房細動発症に関わる研究.
⑥知覚閾値測定を用いた静脈瘤手術に関わる神経障害因子の同定.
⑦末梢血管手術における静脈カフ吻合の開発.
⑧小児循環器開心術における肺動脈形成に関する研究.
⑨日本医科大学 病態解析学部門との 虚血心臓における側副血行路の形成についての共同研究.
⑩日本医科大学 小児科との 川崎病動物モデルに対するスタチンの効果についての共同研究.2021年にAmerican Heart Associationで学会発表.
⑪多血小板(platelet rich plasma: PRP)を用いた新たな心不全治療方法の開発.
⑫徐放化コルヒチンを用いた心筋虚血縮小療法の開発.
⑬公立諏訪東京理科大学 工学部との 心臓超音波画像解析の共同研究.
⑭術中心筋保護法における心筋アクアポリン7の関与をテーマとした基礎研究.
⑮心房細動における左房リモデリングとマイクロRNAをテーマとした研究.
⑯ラットDCMモデルを使用した小児拡張型心筋症に対する肺動脈絞扼術の研究.
⑰小児肺動脈弁付き人工血管のデザイン開発および機能評価.
⑱体肺動脈短絡手術におけるcomputational fluid dynamics(CFD)を用いた血流動態の研究.
今後はAIを用いた手術室の構築や再生医療の研究にも取り組んでいきたいと考えています。手術室はデータの宝庫ですからビッグデータを収集して解析し、AIと連携させることで、ヒューマンエラーの削減が可能になるでしょう。さらに、日本獣医生命科学大学と協力して中・大動物を用いた弁膜症手術、心房細動手術についての研究も行う予定です。
心臓血管外科領域ではAcademic Surgeonを育てようという文化があります。この言葉は私がアメリカに留学していた20年ほど前からアメリカの学会で言われ始めました。意図するところは、単に経験則、主観で手術をするのではなく、客観的に物事を俯瞰しながら手術のできる外科医を育てようということです。
心臓血管外科領域に限ったことではありませんが、いわゆる“神の手”など存在しません。科学に基づいた治療のできる医師を育てることは、学術研究機関である大学病院の使命です。そのために研究にしても手術にしても、徹底的に考えることを大切にしています。
医師は単なる“お医者さん”ではなく、科学者としての眼を持った“医学者”であるべきです。手術や患者さん、物事すべてを「世界中で自分が一番考えている」と胸を張って言えるくらい深く考え抜くことで本質的な成長が得られ、“お医者さん”から“医学者”へと変わっていくことでしょう。その反面、エビデンスを偏重しすぎると新しいことに踏み込めなくなる恐れもあります。エビデンスを大切にしながらも新しいことに挑戦する、そんな人材を育てたいと考えています。
日本医科大学心臓血管外科 紹介動画
日本医科大学附属病院 副院長、 医療安全管理部 部長
1993年 | 日本医科大学 第二外科(胸部外科) 入局 |
1995年 | 海老名総合病院 消化器外科 研修 |
1996年 | 榊原記念病院 心臓血管外科 研修 |
2002-2005年 | 米国ミズーリ州セントルイス、 ワシントン大学に留学 |
2005年 | 日本医科大学 心臓血管外科 助教 |
2008年 | 日本医科大学 千葉北総病院 心臓血管外科 講師 |
2013年 | 日本医科大学 千葉北総病院 心臓血管外科 准教授 |
2014年 | 日本医科大学 付属病院 心臓血管外科 准教授 |
2020年 |
日本医科大学 心臓血管外科 大学院教授 日本医科大学 付属病院 副院長、医療安全管理部長 |
専門:冠動脈バイパス術(成人、小児:川崎病)、低侵襲弁膜症手術、弁形成術、心房細動手術、末梢血管手術、大動脈瘤手術