精神・行動医学分野では大きく分けて3つの領域をテーマにした研究を行っています。 1つ目は、脳画像研究です。具体的には陽電子断層撮像法(PET)と機能的磁気共鳴画像(fMRI)という2つの脳機能を評価する検査を用いて、統合失調症やうつ病、認知症の病態の解明を目指す研究、向精神薬や電気けいれん療法といった精神科治療の治療機序などの解明を目指す研究、スポーツ医学との関連で向精神薬などによる脳機能ドーピング作用を解明する研究などを行っています。その実績と研究体制は国内でも有数のものと自負しています。こころの動きを扱う精神・行動医学は、客観的なデータを示しにくい分野でもあります。脳の中で起きていることを視覚的、客観的に調べる、明らかにできるという点で、脳画像研究はとても重要な研究と言えるでしょう。
2つ目のテーマは、コンサルテーション・リエゾン活動です。特に救命救急センターにおける自殺未遂者への精神医学的介入はAction-Jという自殺再企図防止研究などで成果を上げています。最近ではせん妄予防の多施設共同研究で多くの業績を上げており、がん患者に対する精神科介入の役割についての研究も進んでいます。
3つ目は、電気けいれん療法(ECT)という治療法に関するものです。電気けいれん療法の作用機序の解明です。電気けいれん療法は難治性うつ病や高齢者のうつ病に対して有効な治療法ですが、ECTによるうつ病改善に、脳内物質の変化がどのように関わっているかはまだ十分に明らかになっていません。抗うつ薬など薬物治療が標的としている脳内神経伝達物質がECTによりどのように変化するか、その機序を明らかにすることで、治療効果の評価や反応性を予測するバイオマーカーの開発を目指しています。
また、現在特に力を入れている分野は、老年期のうつ病などの精神疾患と神経変性疾患の関連です。これまで神経変性疾患発症につながる病理の存在は、亡くなった方の脳を解剖して初めてわかるものでした。しかしPETは生体の脳内でその神経変性疾患の病理の一部を評価することができます。私たちはPETを用いた研究で老年期のうつ病の一部には神経変性疾患病理を持っているものが少なからずあることを明らかにしました。高齢化が進む日本において認知症と老年期の精神疾患への理解を深め、新たな治療戦略の確立につながっていくと考えています。
精神科医療にとどまらず、あらゆる医療においてコミュニケーション能力は優れた臨床医に必要なスキルです。当研究室ではコンサルテーション・リエゾン活動によってコミュニケーション力を磨くことに力を入れています。コンサルテーション・リエゾン活動はコメディカルの方たちとの協力が重要ですので、この活動に参加することでチーム医療における医師の役割を客観的にとらえることができるでしょう。
精神科医療は人のこころが影響するさまざまな問題や、脳機能の問題を扱うとても興味深い分野です。未解明な部分も多く、脳科学の領域では今後も重要な発見が進むでしょう。
医療者は、医学研究がどのように医療に貢献しているかについて、患者様やご家族にとっての相談窓口にもなります。よき医療者になるためには医学を学ぶときだけでなく、日常生活の中で感じた疑問を自ら調べて明らかにしていく姿勢を大切にしていただきたいと思います。また患者様と濃密な人間関係を構築することも精神科医療の特徴ですので、常に高い倫理観が求められることも自覚していただきたいと考えます。
1994年 | 日本医科大学付属病院神経科 研修医 |
1996年 | 日本医科大学付属病院神経科 医員 |
1997年 | 日本医科大学付属千葉北総病院神経科 医員・助手 |
1999年 | 日本医科大学付属病院神経科 医員・助手 |
2000年 | Department of Neuropsychiatry, the University of Iowa留学 |
2007年 | 日本医科大学精神医学教室 講師 |
2013年 | 日本医科大学精神医学教室 准教授 |
2021年 | 日本医科大学大学院医学研究科 精神・行動医学分野 大学院教授 |