“痛み”の研究で患者さんのQOL向上に寄与 整形外科学分野 眞島 任史 大学院教授

変形性関節症の疼痛改善に大きな成果

眞島 任史 大学院教授整形外科学分野では患者さんの生活の質(QOL)向上を目指して基礎研究・臨床研究を行っており、とりわけ“痛み”の研究に力を注いでいます。というのも整形外科の患者さんがまず求めるのは「この痛みを何とかしてほしい」ということだからです。
基礎研究においては薬理学教室との連携のもと、変形性関節症の疼痛発症メカニズムの解明と薬物治療の研究を行っています。この研究においてmicroRNA(miRNA)という、他の遺伝子の発現を調節するRNAが関節内に放出され、これがレセプターを介して疼痛を引き起こすことを解明しました。そしてmiRNA阻害薬が疼痛を改善することも明らかにし、薬理学教室とともに国際特許を取得しました。現在はさらに他の遺伝子の関与に関して動物実験で研究を進めています。変形性関節症は日本に現在1000万人以上の患者さんがおり、毎年90万人増えています。こうした膨大な患者さんを痛みから解放し、QOL向上に結びつけていくことに貢献できるよう、努力しています。
臨床ではロボット支援手術や内視鏡手術を通じて、患者さんの早期社会復帰をお手伝いしています。ロボット支援手術は1ミリ、0.1度という精度で医師の手術を支援してくれるものであり、その結果、手術の安全性、人工関節の耐久性や手術侵襲の低減という点で大きなメリットをもたらしています。さらに関節や脊椎の内視鏡手術も数多く行っています。内視鏡手術ならではの低侵襲性という特徴を最大限に活かすことで、早期の社会復帰を可能にしています。

恒常性撹乱による疾患発症機構の解明

ロボテックアーム手術支援システムを使った人工股関節置換術とロボテック手術支援システム「Makoシステム」

医療の発展には医学が不可欠

整形外科学分野の基礎研究・臨床研究の最も魅力的な点は、結果がすぐわかり、患者さんのQOL向上がはっきりと実感できる点です。私は札幌に生まれ育ち、幼い頃からスキーに親しむと同時に怪我も多く経験したことでスポーツ医学に興味を持つようになり、整形外科の道を選びました。怪我をしたスキー選手などが手術によって回復し、健康な生活を取り戻すしたり、競技に復帰する様子を目にすることは、整形外科に携わるものにとって大きな醍醐味です。こうした“わかりやすさ”は整形外科学ならではの魅力です。
現在は医療におけるITの応用を進め、AIを用いて手術方法を決定する研究、生体工学を応用した関節機能再建の研究などを進めており、VR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)の活用にも取り組んでいます。
医学を支えるものは基礎研究であり、その成果を応用することで臨床医学も先へ進むことができます。経験的に理解していたことも研究によって理論づけられていきます。手技を身につけることはもちろん大切ですが、AIやロボットの進化によって診断や手技は私たちの手から離れてしまうかもしれません。そのような時代に向かっていく中で、基礎研究の重要性はますます高まっていくはずです。医療の発展には基礎医学が不可欠であることを、ぜひ皆さんに知っていただきたいと思っています。

プロフィール

眞島 任史大学院教授(整形外科学分野)

1984年  北海道大学医学部卒業
1997~2000年  University of Calgary, Post-doctral fellow
2003年  北海道大学大学院 医学研究科 整形外科 助教授
2007年  北海道大学大学院 医学研究科 人工関節・再生医学講座 特任教授
2013年  国際医療福祉大学病院 整形外科 教授
2017年  日本医科大学病院 整形外科・リウマチ外科 臨床教授
2020年  日本医科大学 大学院医学研究科 整形外科学分野 教授