CT検診の普及によって肺がんの早期発見は進んできましたが、低肺機能や様々な理由で外科治療が困難な場合があります。「がん難民として」困っている患者さんもおられます。そうした壁を乗り越えるべく意欲的な挑戦を続けているのが、日本医科大学の呼吸器外科学です。
我が国で最もがん死亡者数が多いのは、「肺がん」です。2016年の統計では7万4千人近くが肺がんで亡くなっており(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」より)、まさしく脅威の病気と言えます。肺がんの死亡者数が多い理由は、発見時にすでに進行していることが多いためですが、日本医科大学の呼吸器外科学分野では、この治療困難な肺がんの根治に取り組んでいます。
高齢のために手術を行えないなどの理由によって、いわゆる“がん難民”が問題となっている今、胸腔鏡を使用した低侵襲手術や世界で初めて臨床による治療効果を確認できた光線力学的治療などの開発により、裾野が広く、患者さんを取りこぼすことのない治療体制を築いています。この肺癌診療の裾野の広さは、当科の一番の特徴ではないでしょうか。すなわち、小型肺癌に対しては、胸腔鏡手術、進行肺癌に対しては集学的治療と拡大手術、気道狭窄等にはステントやレーザー治療などの呼吸器インターベンション、低肺機能患者さんに対する新しい気管支鏡治療の提供など、他施設では不可能な治療を提供できること特徴です。
光線力学的治療(Photodynamic Therapy:PDT)は、腫瘍親和性光感受性物質と低出力レーザー光でがん細胞を死滅させる治療法です。この治療法は、気管支鏡で観察できる早期肺癌に対する治療法として確立され、低侵襲、低コストな治療法です。
近年、CT検診の普及によって末梢肺野に小型肺がんが見つかるようになりましたが、これまでは末梢肺野にレーザープローブを適切に誘導し、レーザー照射することが不可能でした。そのため、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(旧 日本原子力研究開発機構)と共同で極細のレーザープローブを開発しました。これは、直径1mmのプローブでレーザー照射と病変の観察を同時に行うことができ、末梢小型肺癌に対する新しい肺癌治療法として期待できます。この経気管支鏡的レーザー治療は、低肺機治能で手術不能、手間質性肺炎で放射線治療もできない、いわゆる“がん難民”といわれるの患者さんに新しい低侵襲治療として提供きる日は遠くないと期待できされます。
工学分野の技術を積極的に取り込む、学際的な「医工連携」の取り組みも、当科の特徴です。また、この新しいレーザープローブの技術を応用し、柔軟なプラスチック光ファイバープローブを開発し、これを気管支中に誘導し、赤色LED光による術者のストレス軽減した新しい胸腔鏡手術法も開発しました。LATS(Light Assisted Thoracic Surgery)と呼んでいるこの方法は、術者がストレスを感じることなく肺区域切除や小型病変の同定が行えることを可能にします。
また、ラボワークでは、アンチエイジング遺伝子に注目した研究に取り組んでいます。老化と遺伝子ががん化の関係に注目し、遺伝レベルでの特定を行うことで、患者さん一人ひとりに合わせたがんの個別化治療が可能になるのではないかと考え、その研究を進めています。ロボット手術の需要も今まで以上に増えていくことが予想されるので、今後はさらに積極的に取り組んでいきたいと考えています。
これから薬物治療がさらに進化していく中で、今まで手術適応でなかった進行肺癌の患者さんたちに対する外科手術の幅が拡大することが期待されます。一方で、低侵襲、低コスト、そして安全性の高い、新しい治療法も確立されていくでしょう。「医工連携」によってそうした治療法の開発に取り組むとともに、それらの診療を担う人材の育成、技術力向上のトレーニングにも積極的に取り組んでまいります。
日本医科大学 大学院医学研究科 呼吸器外科学分野 大学院教授
日本医科大学付属病院 呼吸器外科部長
2003年 | 東京医科大学 医学部 助手 |
2007年 | 東京医科大学 医学部 講師 |
2011年 | 東京医科大学 医学部 准教授 |
2012年 | 日本医科大学 大学院医学研究科 大学院教授 |