カエルの変態の研究を通じて、再生医療への応用を探る 生物学 長谷部 孝 教授

草食から肉食への劇的な変化

長谷部 孝 教授生物学教室では、甲状腺ホルモンにより引き起こされる両生類(アフリカツメガエル)の変態についての研究を通じて、消化管上皮の幹細胞の発生メカニズムの解明を目指しています。
皆さんよくご存じのようにオタマジャクシはカエルへと変態します。その変化はまさに劇的で、草食から肉食へと変わるほどです。変態に際してはオタマジャクシの大部分の幼生型上皮細胞がアポトーシスにより除去される一方で、一部の幼生型上皮細胞の脱分化により成体型上皮幹細胞が出現します。それらが増殖・分化することで、変態完了時には成体型上皮を形成し、哺乳類類似の細胞再生系を獲得します。この細胞再生系獲得のメカニズムは、哺乳類ではほとんどわかっておりません。この過程では甲状腺ホルモンに応答してさまざまなシグナル伝達経路が活性化することが明らかになりつつあり、生物学教室では両生類を用いた独自の研究成果を世界に向けて発信しています。特に消化管に注目して研究を行っているのは当教室だけです 。
細胞再生系獲得のメカニズムが明らかになれば、将来的には再生医療やがん治療などの分野に応用可能になるでしょう。そのために今後は幹細胞研究に特に力を入れていく考えです。

医学を学ぶ基礎としての生物学

幼い頃、近所の川からつかまえてきたオタマジャクシたちが、ある朝カエルになってみんないなくなってしまいました。そのとき子供心に感じた「すごい!」という私の驚きが、この研究の原点になりました。
生物学を専攻するきっかけは高校時代の特別授業が非常に面白かったことです。その後、学生時代に研究室での実験に誘われて両生類研究の面白さを実感。米国NIHへの留学では、研究の進め方などについて刺激を受けました。このようにカエルとの出会いという小さな出来事から出発し、ずっと両生類と向き合ってきました。
そもそも医科系の大学で生物学を学ぶことの意義とは、何でしょうか。
ほとんどの学生は大学に入学するまで医学を勉強してきていません。1年生でいきなり医学を学ぶことには、やはりそれなりの無理があります。そこで医学を学ぶための基礎学力を身につけ、人間性を磨くためにも、教養教育として生物学を学ぶことは重要であると考えます。生物学の研究では、どうしても実験対象の動物を犠牲にしなくてはならない場合があります。そうした場面に直面することで学生の皆さんは「命とは何か」を自らに問いかけるでしょう。その体験が医師としての精神的な基盤を育むことにつながると言えます。また生物のメカニズムを学ぶことは、病気や怪我といった表面的な症状にとらわれることなく、疾患の本質を理解する際の支えとなり、より良い医療の提供へとつながるはずです。
現在生物学教室には常駐の学生はおりませんが、GPA上位者プログラムを利用して不定期に研究に参加する学生がいます。どの学生も生物に対する純粋な好奇心から生物学教室をのぞきにきて、実験に取り組むうちに夢中になっていきました。今では学会の発表も彼らに任せています。このように、きっかけは何でもけっこうです。ぜひ皆さんも気軽に生物学教室に足を運んでみてください。ドアはいつでも開いています。

プロフィール

長谷部 孝教授(生物学)

2000年3月 早稲田大学大学院理工学研究科物理学及応用物理学専攻修了 博士(理学)
2000年4月 早稲田大学教育学部理学科生物学専修 助手
2003年4月  米国NIH ポストドクター
2006年4月  日本医科大学基礎科学生物学 講師
2012年4月 日本医科大学基礎科学生物学 准教授
2022年4月  日本医科大学基礎科学生物学 教授