眼瞼下垂の「詳しい原因」と「手術のやさしい解説」
はじめに
眼が見えにくくなる疾患は多くあり、原則は眼科受診が基本です。もし眼球に問題がないと言われたら、まぶたのせいで見えにくくなっている可能性があります。医学用語で「眼瞼下垂(がんけんかすい)」と呼ばれる、「まぶたを持ち上げにくくなる疾患」で眼が見えにくくなっているのなら、形成外科で行う手術で症状が改善する場合があります。
「眼瞼下垂」とはなんでしょう?
「眼瞼(がんけん)」とはまぶたのこと、「下垂(かすい)」とは垂れ下がるという意味で、通常あまり意識せずに開けたり閉じたりしているまぶたが、上げにくくなるという意味です。目の中でものを見ているのは「瞳孔(どうこう)」と呼ばれる黒目の中央部の部分ですが、この部分が上げにくくなった上まぶたで隠されてしまうと、「見えにくさ」に繋がります。
まぶたを持ち上げているのは筋肉の力ですが、まぶたを上げるためには非常に薄い3つもの筋肉の力が関与しています。このいずれの筋肉のちからが落ちても「眼瞼下垂」に繋がります。また、筋肉に「まぶたをあげてください!」と指令を伝える神経の機能が落ちても、「眼瞼下垂」になります。長年使ってきたことにより、まぶたの皮膚がたるんで垂れ下がってしまい、もともとの筋肉の力では上げきることができないくらい重くなっても、「眼瞼下垂」になります。このように、眼瞼下垂には原因に応じて①筋原性下垂(筋肉が原因の眼瞼下垂)、②腱膜性下垂(筋肉からまぶたへ力を伝える膜がゆるむための眼瞼下垂)、③神経原性下垂(神経が原因の眼瞼下垂)、また④偽性眼瞼下垂・上眼瞼皮膚弛緩症(実際にまぶたが上げにくいわけではないもののうわまぶたの皮膚がたるむために見えにくい)などのいくつもの原因が考えられるため、専門の眼科・形成外科で「何が原因の見えにくさなのか?」ということをしっかり見極めることが大事です。
「眼瞼下垂」の治療
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眼瞼下垂には内服薬や注射は効きにくいため、原則は手術です。眼は見た目のためにも非常に重要な部分であることから、手術方法は施設や術者により様々な方法が考案されています。当院では保険適応となる「機能的に問題のある(=見た目の問題だけではなく、実際に見えにくいために生活に支障をきたしている)」眼瞼下垂の手術を行っており、その代表的な術式についてご紹介します。
① 挙筋前転術(きょきんぜんてんじゅつ)
うわまぶたを持ち上げる筋肉が伸び切ってうまく縮むことができないために眼瞼下垂となる「筋性眼瞼下垂・腱膜性眼瞼下垂」の方に適応となる手術方法です。
② 前頭筋吊り上げ術(ぜんとうきんつりあげじゅつ)
まぶたを持ち上げる筋肉3種類のうち、特によくはたらくのは上眼瞼挙筋・ミュラー筋というまぶたの中にある2種類の筋肉ですが、これらが非常に弱ってくる、もしくは神経麻痺で全く動かなくなる、そもそも生まれつきの異常でまったく機能していない、という場合には、3種類目の筋肉である「前頭筋」のちからを借りてまぶたを持ち上げる方法があります。「前頭筋」とはおでこの筋肉で、おでこにしわを作りながらおでこの皮膚ごとまぶたを持ち上げる働きがあります。本来はおでこの皮膚を持ち上げることがメインの役割の筋肉で、まぶたが持ち上がるのは「ついで」というくらいなので、まぶたを持ち上げる作用はそれほど強くはありません。しかし本来まぶたを持ち上げるための「上眼瞼挙筋」「ミュラー筋」がうまくはたらかない場合はこの「前頭筋」に頼るしかないので、この少しまぶたからはとおい「前頭筋」を直接ひものようなものでまぶたにつないで、「前頭筋」のちからをダイレクトにまぶたに伝わるようにする手術があります。これが「前頭筋吊り上げ術」です。
③ (眉毛下・重瞼)余剰皮膚切除術(びもうかよじょうひふせつじょじゅつ)
まぶたを持ち上げる筋肉にも神経にも問題がないのに、まぶたが覆いかぶさってきて見えにくいという場合があります。これは「偽性眼瞼下垂(眼瞼下垂のようであってそうじゃない)」と呼ばれる状態で、主にはまぶたの上の皮膚があまりにも重くなったり、たるんできたりしてしまっているために、まぶたのふちは持ち上がるのに見えにくい、という状態です。この場合はまぶたの中の筋肉に手を加えなくても、余ってたるんだ皮膚を切除するだけで症状がよくなることが多くあります。切除する部分は、二重の線で切り取る「重瞼線切除(じゅうけんせんせつじょ)」と二重のラインが乱れないように眉毛の下のラインで切除する「眉毛下切除(びもうかせつじょ)」の二種類があります。
眼瞼下垂の手術は見た目の問題と機能の問題とをどちらもよく考えなければならないこと、2つある左右の目のバランスの問題など、ただ「見えればいい」というだけではない手術であるために、施設や術者によって様々なこだわりがあり、また複数回の手術で微妙な調整が必要であったりなど、奥の深い領域です。また「何が問題で見えにくくなっているのか?」という原因も複数あり、一つの原因で見えにくくなっているとは限らず、複数の要因が絡み合って「見えにくくなっている」場合も多くあります。経験豊富な眼科医・形成外科医の診察により、適切な治療を目指しましょう。
なお、眼瞼下垂の手術は美容的な側面がメインと考えられる場合保険が適応とならず自費治療となることがありますが、当院では保険適応の手術のみを行っているため、自費治療が適応となると診断された場合には当院での治療ができない場合がありますのでご理解・ご了承いただければ幸いです。どうぞ一度、お気軽にご相談ください。
治療の流れ
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外来で眼瞼下垂と診断された場合は日帰りでの局所麻酔手術をご提案します。これは、「眼瞼下垂症」という病名に対する、「眼瞼下垂症手術」という名前の保険適応での手術になります。
また、「血が固まりにくい薬を飲んでいる」「家が遠方である(川崎市や横浜市以外からの通院)」などの不安がある方や、医師が入院が必要と判断した場合は術後の入院にも対応しています。ただ、ものの見えづらさの原因がすべて眼瞼下垂によるものとは限りませんので当科での手術については脳梗塞や膠原病などの重大な疾患が隠れている場合があり、眼科の受診を受けてから行うことを推奨しております。 -
手術における注意点
- 3日間ほど腫れます。きずを冷やす、安静にするようにし、運動・湯船・飲酒は控えてください。
- 2週間ほど内出血が続くことがあります。
- 2~3ヶ月ほどはきずに赤みが続くことがあります。
- 片目のみ手術を受けた場合、手術を受けてない方の片目が多少ゆるむことがあります。
- 目元が変わることによって顔の印象が変わります。