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当科の外傷治療について

当救命救急科の外傷治療

当救命救急科の外傷治療の特徴は、病院外の受傷現場(病院前)より退院まで、当科の専従医(医局員)が一貫して診療している数少ない施設と言えます。外傷専門医はもとより、脳神経外科、外科、整形外科、集中治療をサブスペシャリティーとする専従医が、多発性外傷や重症外傷に対し、初期治療から手術を含む根本治療、リハビリテーションに至るまでシームレスな連携で24時間対応しています。重症多発性外傷のように時間との闘いの中で、複数の専門分野にまたがる外傷診療などは特に威力を発揮します。また必要に応じて、院内の各科と協力して治療に当たることもあります。外傷専門医研修施設であり、外傷医の育成も念頭にいれています。またDMATやドクターカーによる病院前救護により、受傷直後からの早期外傷治療にも挑戦しています。

当救命救急科の外傷患者さんの概要

2020(令和2)年から2022(令和4)年までに当科に入院した、外傷による来院時心肺停止(CPAOA)症例と、抜釘やVPシャントなどの予定手術患者さんを除く外傷入院患者さんは366例でした(グラフ1)。年平均150例前後の外傷患者さんが入院しています。約8割の患者さんが現場より救急隊の「救命対応」の判断を経て、直接当センターに搬送されています。入院患者さんの年齢層は小児から90歳を超える超高齢者まで様々ですが、約7割が男性となっています。また5割弱が社会で活躍する現役世代(20〜60歳代)であることは、外傷診療の社会に果たす役割の大きさを示唆しています(グラフ2)

外傷患者さんの重症度評価について

  • 多発性外傷患者さんのための重症度評価法は、Abbreviated Injury Scale(AIS)をもとに算出されます。損傷部位を頭頸部、顔面、胸部、腹部および骨盤内臓器など6部位に割り当て、各部位のAISスコアの最大値の上位3部位までのスコアの最大値を二乗して足した値を、解剖学的重症度(ISS)と言います。ISSは複数箇所の損傷を解剖学的な面から評価した重症度スコアです。
  • ISS>15の場合、重症外傷と定義されています。
  • AIS≧3の部位が2カ所以上ある外傷を、特に多発性外傷と定義されています。
  • 予測生存率(Ps)とは、外傷患者さんのISSと、病院到着時の意識、呼吸数、収縮期血圧から導かれる生理学的重症度(RTS)を基に算出した値です。0.1は10%、1.0は100%の生存可能性をそれぞれ示しています。Ps≧0.5、つまり50%以上の確率で救命される可能性があったにも関わらず、結果的に死亡した症例は予測外死亡症例と呼ばれ、このうち80歳以上の高齢者と、意識の悪いGCS≦5の急性硬膜下血腫(SDH)を除いたPsを修正予測外死亡と言います。一方Ps<0.5で救命された症例は予測外生存とも呼ばれ、極めて救命困難な重症度にも関わらず、救命された患者さんを示しています。

当救命救急科の外傷診療の内容

  • 2020(令和2)年から2022(令和4)年までの外傷による来院時心肺停止(CPAOA)症例や予定手術患者さんを除く外傷入院患者さん366例のうち、およそ4割弱がISS>15の重症外傷です(グラフ3)。また全体の3割弱がAIS≧3の部位が2カ所以上の多発性外傷となっています(グラフ4)。比較的重症度の高い患者さんが搬送されますが、この3年間での外傷患者さんの死亡退院は55例(15%)でした(グラフ5)。
  • この3年間では、25例の予測外死亡退院がおりました。重症頭部外傷症例、術後感染症、肺塞栓症、基礎疾患の増悪が主な死因となっています。一方予測外生存も8例あり、社会復帰された方も数名おりますが、多くは重度の後遺症を残し、リハビリテーション病院や療養病院へ転院しました(グラフ6、7)。
  • 外傷患者さんに対する外傷の手術は、年平均25件(ただしCPAOAに対する手術、予定手術は除く)となっています。急性期のダメージコントロール(DC)手術では、救急室蘇生的開胸(ERT)、開腹(ERL)、腹腔内や後腹膜のガーゼによるパッキング(圧迫止血)が行われます。穿頭術は穿頭血腫除去(HITT)や脳室ドレナージ、頭蓋内圧(ICP)モニター留置が行われ、その後出血傾向が改善した後に開頭血腫除去などの開頭術に移行することもあります。ほかに髄液漏や視束管開放術などの頭蓋底手術も開頭手術に入ります。胸腹部外傷手術は心臓、肺、肋骨の損傷をはじめ、肝臓、脾臓、腎臓、膵臓、腸損傷などに対して止血、切除、再建を行います。DC手術に引き続いて全身状態を改善した後、複数回にわたって行われることもあります。脊椎外傷手術は頸椎から腰椎まで幅広く行っています。整形外傷手術は四肢や骨盤の骨折などに対する観血的整復、神経や腱縫合、切断術などが行われています。顔面外傷手術では、当科に長期研修で赴任した他大学の顎顔面歯科口腔外科医を中心とし、咬合障害や審美の改善を目的に行われています。また放射線科医と協力し、当施設の専従医が中心となって血管内治療(動脈塞栓術:TAE)を積極的に行ない、急性期の止血から、外傷後仮性動脈瘤塞栓術などをしています。ほかに汚染創や皮膚欠損創、開放創に対する止血や縫合閉鎖、緊急外科的気道確保(気管切開など)は、その他の手術として登録しています(グラフ8)。

当救命救急科の外傷診療各統計

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