神経膠腫
神経膠腫について (しんけいこうしゅ)Glioma
神経膠腫(グリオーマ)の治療 Therapy for Glioma
神経膠腫(glioma)の治療では摘出術でなるべく多く摘出した方が、再発率が低く生命予後も良いことが知られています。しかし、脳という臓器は他の臓器のように大きめに取るということが出来ません。それは重要な神経機能が脳の中に存在しているからで、安全に摘出出来るかの判断が非常に重要になってきます。そこで、手術前には脳機能を十分調べます。
手術前の検査として主に以下のものがあります。
MRI(核磁気共鳴装置)
脳腫瘍の位置や広がり、重要な機能部分との関係を調べます。
RI(核医学検査)
脳腫瘍の活発度や性質を知るために行われる検査です。特に悪性神経膠腫と悪性リンパ腫の鑑別に威力を発揮します。
トラクトグラフィー Tractography
脳内の神経線維を詳細に調べ、脳腫瘍と重要な神経線維がどのような関係にあるのかを調べ、手術の時にこれらが損傷しないような手術プランを計画します。
(左図)ピンク色が脳腫瘍、緑色は運動の神経線維を示しています。
(右図)赤色は右の運動神経線維、緑は左の運動神経線維。黄色は言語機能の連絡をする神経線維を示しています。
高次脳機能検査(言語テストなど)
優位大脳半球(右利きの方の多くは左の大脳半球)に脳腫瘍がある場合には手術前から言語機能の障害がある場合があります。その程度を把握しておくことは治療を進める上で大切です。また、一見症状がないように思われてもよく調べてみると高次脳機能障害が現れている場合があり注意が必要です。
脳血管撮影、WADAテスト
脳腫瘍を栄養する異常血管の状態を観察し、また腫瘍と正常脳血管との関係を調べます。手術中にどの血管を処置するか、どの血管を守るかを把握し計画します。
また、どちら側の脳が患者さんの優位大脳半球であるのかを確認するために、脳血管撮影中に少量の麻酔薬を脳内の局所に注入することで脳の機能を調べるWADAテストも大切な検査です。
神経膠腫(グリオーマ)の手術 Surgery for Glioma
手術法
脳腫瘍の手術は大きく摘出術と生検術に分けられます。
脳腫瘍摘出術
腫瘍を最大限、かつ安全に摘出します。
脳腫瘍生検術
脳腫瘍の病理診断や遺伝子診断のために一部を採取します。
脳腫瘍摘出術で用いる技術
ニューロナビゲーション Neuronavigation
脳腫瘍の位置を手術中に知ることが出来ます。同時に脳の重要な機能部位もわかりますので、それらを損傷しないように手術を行うことが出来ます。
大脳マッピング Brain Mapping
脳の機能を微弱な電気刺激で調べます。運動機能を調べる場合は全身麻酔で手術を行うことが出来ます。
大脳皮質マッピング Cerebral cortex Mapping
大脳の表面の神経細胞の機能を調べます。運動野と呼ばれる体の動きを司る脳を見つけ出し、その部分を損傷しないように注意しながら手術を行います。
皮質下マッピング Subcortical Mapping
大脳皮質の神経細胞の情報は脳内の神経線維を通って脳の他の場所に運ばれたり、脊髄を通って全身の臓器とのやり取りをしています。
脳腫瘍を摘出する際に微弱な電気刺激でこれらの大切な神経線維を確認し、それを傷つけないようにします。当院では独自開発の電極により従来の方法よりさらに安全な神経機能マッピングと摘出術を実現しました。
(左図)皮質下マッピング用電極 (NY Tract Finder)
(右図)NY Tract Finderによる神経線維刺激
(図)正確な脳マッピングにより機能を守り、最大限の腫瘍摘出を行います。
蛍光診断(光線診断) PhotoDiagnosis(PD)
脳腫瘍、特に神経膠腫(glioma)では摘出術中に正常の脳組織との区別が難しいことがしばしばあります。そのような場合には、脳腫瘍かと思って切除したら大事な正常脳組織であったり、また正常組織かと思われた部分が脳腫瘍の一部であるということが術後のMRI検査でわかるということもあります。これを防ぐために用いられる方法が蛍光診断です。
手術前にアミノレブリン酸というお薬をブドウ糖に溶かして内服していただきます。そして手術中に脳腫瘍のあたりに青い光を当てると腫瘍だけが赤く光って見えます。
(左図)腫瘍を摘出後
(右図)青い光を当て、残存腫瘍だけが赤く光る。
この赤く光った部分を摘出すれば腫瘍の全摘出が完了します。
以上のような様々な先進技術を利用しながら安全かつ最大限の腫瘍摘出を行いますが、最終的には手術を行う医師の経験にもとづく手術中の判断も重要な要素であります。患者さんがよりよい状態になっていただけるよう最大限の治療を心がけております。