生理学(生体統御学)
生理学(生体統御学)/生体統御科学 柿沼 由彦 大学院教授 |
生理学は、第一に生体の持つ様々な本来の機能と、その機能を調節している機構を理解するための学問であり、第二に正常の生理学的機構理解を基盤としてヒトにおける疾患の病因や病態を解明する学問分野である。したがって、生理学という単一の学問分野が存在するというよりも、個々の領域の機構理解が統合されて生理学が形成されていると考えられる。よって、生理学は単なる生理機能を測定するものではなく、全ての臨床医学の根幹となるものと考えられる。なぜならば、疾患の病因病態をも視野に入れる学問であるからである。
医学用専門的教科書を紐解けば自明であるが、疾患に関する記載の項目の中で特に「病態生理」の項目がもっとも多くページを割かれていることに気が付くであろう。そして、医学の進歩によりその記載量は減るよりもむしろ増えている。すなわち、生理学は学部学生のときのみ履修する学問ではなく、医学に携わる限り生涯この生理学的視点を用いて上記の二点について探求し続けるものである。学部学生の時に履修する生理学は、ほんの一部のコアを学ぶにすぎず、けっしてそれで必要十分なものではない。昔から多くの医学生が医師になった後に痛切に感じることの一つは、「生理学をもっと学んでおくべきだった」である。おそらくこれは、知識というよりも先述した生理学的思考・視点というものを指していると考えられる。
しかし、その一部のものであってもそれらは長い歴史の評価に耐えて残ってきたコンセンサスでもある。そのコンセンサスに値するものを、研究を通して我々は見出そうとしている。なぜなら、疾患の病態生理の理解がいまだ不十分であり、よってより新規治療方法が常に模索されているからである。
個々の細胞・組織・器官の機能を理解するだけにとどまらず、さらに重要なのは、それらを調節する機構(神経・内分泌・その他の新規的調節)に関する知識を統合することによりはじめて、より高度で複雑な生命現象の多くを論理的に説明でき、生体全体を把握できるものと考える。生理学を通して、生命・生体の複雑さと一方の美しいまでの統一性を感じられればと願っている。
当講座は卒前教育においては、学部生に生体統御学として、循環器、内分泌代謝、消化器、腎、筋の分野を担当しており、学生が生体の持つ様々な調節機能の巧みさに感動できるような講義、実習を目指している。特に生理学実習では実習課題に関連するセミナーも取り入れ、実習課題に加え、さらに新たな課題を選択させて、学生が自ら学ぶ姿勢を習得するように努めている。
卒後教育においては、大学院生、特に高いモチベーションと、「なぜを解明したい」という強い意志をもつ学生の受け入れを積極的に行うことを目指している。研究領域としては、特に循環器、内分泌代謝、神経及び細胞生理をカバーしている。様々な研究課題がある中で、その現象に隠れている機構をなるべく普遍化して捉えるような研究方法、また問題点の抽出およびその解決方法、そして展開していく方法を、ディスカッションを通して会得する姿勢を学べるよう努めている。それらを通して研究はけっして一人の力だけでできるものではないこと、情報はオープンにし共有しあってこそ新たな視点が生まれるものであること等を、体感できることを目指している。