ドクターヘリ事業
ドクターヘリの概要
平成13年10月1日から日本医科大学千葉北総病院を基地病院として、千葉県ドクターヘリ事業が開始されました。ドクターヘリとは、「救急専用の医療機器等を装備したヘリコプターに救急医療の専門医および看護師が同乗し、消防機関等の要請により救急現場に向かい、救急現場から医療機関に搬送する間、患者さんに救命医療を行うことのできる救急専用ヘリコプター」をいいます。このドクターヘリの導入により、医師による速やかな救命医療の開始とあわせて、高度な医療機関への迅速な収容が可能となり、重症救急患者さんの救命率の向上が期待されるところです。
平成11年から1年6カ月間にわたり、当時の厚生省の試行的事業として神奈川県の東海大学と岡山県の川崎医科大学において、このドクターヘリが運航しました。この結果、高い救命効果と後遺症の軽減が得られたとして、平成13年度より正式に厚生労働省の「ドクターヘリ導入促進事業」が開始されました。
運航に要する費用は1年間で約1億8千万円で、国と都道府県が負担することになっています。現在、千葉県のほか、北海道、神奈川県、長野県、静岡県(2)、愛知県、和歌山県、岡山県、福岡県、長崎県の1道9県の11箇所で事業が展開されています。
救命医療にヘリコプターを使用することは、わが国ではこれまで消防防災ヘリがその役割を担ってきました。しかしながら手続き上、あるいは機体の性能上、離陸までに時間を要する、医療機器が標準装備されていない、機体が大きく騒音や着陸地点の確保に問題がある等の理由で、消防防災ヘリが日常の救急医療の中で使用されることはほとんどありませんでした。当院に配備されたヘリコプター(マクドネルダグラス社製、MD-902)は、以下の特徴があり、これゆえに救急現場にいち早く救急専門医を送り込み、単に医療機関までの搬送時間を短くするだけでなく、治療開始時間を早くできるという点で優れた効果を発揮できると考えられます。
- エンジンスタートから約2分で離陸可能である
- 機体がコンパクトでテールローターが無いため安全で低騒音である
- 医療機器が標準装備された救急専用ヘリである
ドクターヘリ出動の流れ
千葉県ドクターヘリ事業の運用形態は、基本的には救急車とのランデブー方式を用いています。この方式では、消防機関からの出動要請とともにドクターヘリが出動し、一方、救急車はあらかじめ設定してある救急現場に最も近隣の臨時ヘリポート(公共の運動場、公園や小中学校の校庭など)へ向かいます。
飛行中のドクターヘリへ患者さんの情報とともに臨時ヘリポートの場所を無線で連絡し、臨時ヘリポートでドクターヘリと救急車がドッキングします。医師は救急車内で患者さんの診療を開始し、ドクターヘリ内へ患者さんを収容し離陸します。当院救命救急センター内のホットラインに要請があると、ドクターヘリ運航管理室から待機している操縦士と整備士に出動命令が出され、エンジンがスタートします。
同時に救命救急センター医師とフライトナースはヘリポートへ向かい離陸します。現在、要請から離陸までに要する時間は約3分と欧米に匹敵する速さとなっています。
ドクターヘリの出動は現場の救急隊、もしくは119番通報の内容によっては消防の通信司令室から要請されます。その出動要請基準は「生命の危険が切迫しているか、その可能性が疑われるとき」を基準としており、患者さんの病態に対応した高度医療機関へ迅速に搬送するため、Uターン(当院への搬送)とJターン(千葉県内及び茨城県南部地域のヘリポートが確保されている医療機関への搬送)を効率的に実施しています。
「千葉県ドクターヘリ運航基準」では消防機関は出動要請後に、救急患者さんが比較的軽症であることが判明した場合(オーバートリアージ)には、ドクターヘリの出動をキャンセルすることができます。
オーバートリアージは世界的にも救急ヘリコプター出動件数の20~30%あり、現場での病状の確認等により出動したドクターヘリが日常の救急医療に積極的に利用され、preventable death(防ぎ得た死亡)を減少させることに寄与するものと考えられます。
安全確保はドクターヘリ運航の最重要課題です。臨時ヘリポートの安全確保は消防機関の協力を得て行っており、安全が確認されないうちに着陸することは、たとえ緊急性の高い場合であっても行うことはありません。天候調査は運航管理室において随時行っており、飛行不能の場合は要請時即座にその旨を伝え、通常の救急車による搬送を行います。
これまでの出動実績
平成13年10月の導入以降、平成16年度からは千葉県のみならず茨城県と協定を結び同県の南部地域までを飛行範囲として、平成18年9月までの5年間の出動は2,787件、診療人数は2,791名にのぼります。
内訳は、現場からの直接搬送2,485例、転院搬送301例であり、傷病の概要は外傷1,358例、熱傷62例、急性薬物中毒79例、脳血管障害424例、心大血管疾患331例、その他537例でした。現場からの医療開始と、高度救命医療機関への迅速な搬送により、救命ないしは予後の改善が達成されたと考えられました。また、外傷症例は全出動の48.7%を占め、今後、千葉県内における交通死亡者の減少に寄与する可能性が極めて大きいことが予想されます。
21世紀におけるわが国の救急医療はドクターヘリの運用により大きな変革を遂げると考えられ、当院にはその先駆的役割を果たす歴史的使命があると考えています。将来のわが国の新しい救急医療体制のモデルを構築するため、これからも救急医療機関ならびに関係各機関との連携を密にして、出来得る限りの努力を続けていきたいと考えています。