循環器内科では4つの付属病院および派遣病院、関連施設を含む総勢約200人の医局員が、大所帯特有の明るく賑やかな雰囲気のなか、日々の診療,研究,教育を行っています。我々の医局の大きな特徴は、それぞれの医師が高度な専門性と研究業績を持ちつつも、専門分野に縛られずに広い視野で一人一人の患者さんの治療が出来るような教育システムを長年にわたり維持していることです。循環器疾患の多くはその前段階として各種生活習慣病が背景にあり、また一方で循環器病の最終形態である心不全では脳、肺、腎臓などの他臓器の病態と密接な関連を有しているため、医師には多くの領域、疾患に対する知識と経験が求められます。それらを幅広く網羅しつつ、起きてしまった心臓病に対しては専門性をいかんなく発揮して高度な治療にあたる。この総合力と専門性のバランスが循環器内科の魅力であるといえるでしょう。卒前・卒後教育ともに主治医としてその診療にあたり、上級医による日々の指導とともに、毎週月曜には病棟ごとの症例検討カンファレンス、火曜日には医局カンファレンスと病棟回診を行っています。
 循環器内科には7つの研究グループがあり、グループごとの専門性の高いミーティングを行うとともに、各グループで連携をとりつつ協力しあって患者さんの治療にあたっています。
 当教室は日本循環器学会、日本不整脈学会、日本超音波医学会、日本心血管インターベンション学会、日本集中治療医学会、日本糖尿病学会、日本臨床薬理学会等の研修施設として認定されています。

不整脈グループ

 不整脈グループは、各種不整脈に対する薬物治療とカテーテルアブレーションやデバイス植込みなどの非薬物治療、および遺伝性不整脈の診断/治療を中心として活動しています。特にカテーテルアブレーションは2012年には243件と全国有数の治療実績を有し、さらに2013年は年間300件にせまる勢いで症例数が増加しています。対象不整脈は心房細動、心房粗動、心房頻拍、房室結節リエントリー性頻拍、副伝導路症候群、心室期外収縮、心室頻拍と幅広く、高い治療成績を上げています。とくに難易度の高い心房細動アブレーションにおいては、持続性心房細動でも初回施術後洞調律維持率は65%を超えており、複数回術後では85%超と卓越した成績を上げています。この他にも、心筋梗塞や心不全急性期の致死性心室性不整脈に対するカテーテルアブレーションでも良好な成績を上げています。また、ペースメーカ治療、植込み型除細動器(ICD)治療、慢性心不全症例に対する両心室ペーシング治療などのデバイス治療でも、多くの症例数を有しています。さらに加算平均心電図やウェーブレット変換法を用いた心電図解析による心臓性突然死の非侵襲的評価法も行っています。また、2013年度からは、先天性QT延長症候群やブルガダ症候群などの致死性遺伝性不整脈の臨床、研究の世界的権威である清水教授が主任教授となり、今後はこれらの致死性遺伝性不整脈の診断、治療、研究にも積極的に取り組んでいきます。
 一方、海外留学に目を向けると、不整脈グループからは基礎から臨床までの幅広い研究テーマで米国、カナダ、フランスの研究施設・病院に留学者を輩出しています。これにより最先端の研究に携わるのみならず一流の研究者との交流が深まり、幅広い知識と経験を得ることが出来ます。
 研究面では、カテーテルアブレーションやデバイス治療の豊富な症例数と詳細なデータ解析による新たな不整脈機序、診断法、治療法に関する臨床研究を積極的に行っており、また最先端の機材を用いた基礎研究も行っています。これら研究成果は国内外での学会発表はもちろんのこと、英文学術誌へ多数報告しています。また、致死性遺伝性不整脈分野では、一流英文学術誌への報告など国内外への情報発信の他、厚生労働科学研究費などの競争的研究費も多く獲得しています。

虚血性心疾患グループ

 循環器内科では昭和40年代より心臓カテーテルを導入し、主に狭心症、心筋梗塞などの冠動脈疾患を対象に年間1000件以上の心臓カテーテル検査・治療を行っています。患者さんの負担を減らすためカテーテルの穿刺部位として前腕の動脈を積極的に選択し、冠動脈造影のみでなく血管内画像診断装置(血管内超音波,血管内視鏡、血管内光干渉断層)を用い詳細な冠動脈病変の情報を得ることで最適な治療法を選択しています。一方で冠動脈疾患のみでなく、下肢動脈、腎動脈、大動脈弁、僧帽弁の狭窄や閉塞性肥大型心筋症に対しても積極的に血管内治療を行いよい効果をあげています。とくに閉塞性肥大型心筋症に対する経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)は豊富な経験があり他施設から多くの患者さんの紹介を受けています。研究面では最新の血管内画像診断装置や放射線科と共同でPETなど各種画像診断装置を用いて循環器疾患の発症機序を解明したり、カテーテル器具を評価したり様々な研究を行っており、その結果を国内外の学会や著名な雑誌に報告しています。さらに現在数名の医局員が米国に留学しており世界最先端の臨床や研究に携わり活躍しています。
 虚血性心疾患の非侵襲的な診断・治療に関しては、画像・心電図診断から各種負荷試験・自律神経検査などを幅広く行っています。また、包括的な虚血性心疾患治療の構築を目指し、心臓リハビリテーションも積極的に行っています。さらに、新たな冠危険因子として注目される睡眠時無呼吸症候群・精神神経因子・アルドステロン活性などに対する系統的介入法についての研究も行っています。また、循環器疾患合併高血圧症も研究テーマの一つとして、内外に向けて学会・論文などの形で活発に発表しています。

心不全グループ

 心不全の原因は、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、弁膜症、心筋症 (拡張型,肥大型)、不整脈、内分泌代謝疾患、膠原病、肺疾患など非常に多岐にわたっています。そして、その臨床像は循環器の様々な病態を含むだけでなく、腎、肺、脳、そして肝など多臓器との連関が非常に重要です。このため、循環器科内科の各グループだけでなく、腎臓内科、呼吸器内科、脳内科などの他科とも協力して診断、治療にあたっています。
 当科では年間約350例の急性心不全入院があり、比較的軽症な症例から大動脈バルーンパンピングや経皮的心肺補助装置を必要とする重症例、そして心移植が必要な難治例と様々な症例に対し先進的な治療を行うとともに、近年増えつつある高齢重症心不全患者に対する治療の問題解決に向けて医療ネットワークの構築にも力を入れています。
 毎週金曜には心不全グループでのミーティングを行っており、心不全症例の検討の他に、心不全治療の関するミニレクチャーや日欧米の心不全ガイドラインの解説の講師役を研修医(前期・後期)が持ち回りで行っています。また上級医は現在進行中の臨床研究の報告・検討、今後の臨床研究の提案を行っています。
 臨床研究では、急性心不全における長期予後改善を目的とした急性期薬物療法の検討、肺疾患合併症例における薬物療法適正化と非侵襲的陽圧換気法の予後改善効果の検討などを行っています。また、心筋症における病理組織学的検討として光学顕微鏡検査以外に電子顕微鏡による検討を行い、心筋シンチ、心臓MRI、PET検査と対比しその病態把握・診断精度の向上を目指しています。
 基礎研究では、女性ホルモン、糖尿病治療薬、そしてβ3アドレナリン受容体刺激の心保護効果の検討として、心不全進展過程にみられる心肥大、心筋線維化、心筋アポトーシスとオートファジーなどに対する効果を生理学的、病理組織学的、そして分子生物学的に検討しています。

大動脈疾患グループ

 循環器疾患における大動脈疾患の占める割合は、集中治療室(CCU)における年間入室患者の約5%ですが、大動脈疾患は緊急性、重症度がともに高い重要な疾患です。当院循環器内科では、大動脈解離、大動脈瘤などの大動脈疾患の診断と治療にも積極的に取り組んでいます。治療方針は、心臓血管外科、放射線科、循環器内科の三科で合同カンファレンスを行い、個々の症例に最適の治療方針を決定しています。主な研究テーマには、大動脈解離、大動脈瘤、マルファン症候群およびEhlers-Danlos症候群などの結合織障害であり、学会発表・論文発表など積極的に国内外に情報発信をしています。

末梢動脈疾患・再生医療グループ

 末梢動脈疾患として、バージャー病、閉塞性動脈硬化症などの診療・治療・臨床研究を行っています。特に一般的な治療法では治らない難治性の血流不全や抗生剤多剤耐性菌感染創に関しては特徴的な治療を行っています。当グループの独創的な点として、自己細胞や血液、衝撃波による血管再生治療や、昆虫を使用して薬剤を極力使用しない創傷治療法など、患者さん自身や生物のもつ再生能力を最大限活用した治療法の確立が挙げられます。これにより副作用を抑え、環境にもやさしく、経済的利点も踏まえた医療を提供しています。
 自己骨髄幹細胞筋肉内投与による血管新生療法は、閉塞性動脈硬化症、糖尿病性壊疽、バージャー病などによる下肢血流不全で潰瘍や壊疽が生じ切断以外に治療法が無い患者や、更に治療が難しい膠原病やリウマチなどの難病疾患患者に対して施行し、良好な成績を上げています。京都大学再生医科学研究所との臨床共同研究として、筋肉内注射のみで血管新生効果のあるDDS徐放化b-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)蛋白による血管新生療法や、これに伴うDrug Delivery System (薬剤送達システム)、組織工学など再生医学の基礎研究も行っています。また、非侵襲的治療として、末梢動脈疾患(PAD)に対する低出力衝撃波による血管新生療法も行っています。さらに本邦初の本格的昆虫医療として、医療用無菌ウジを用いたマゴットセラピー(医療用ウジ療法)を開発し、治療抵抗性の潰瘍・壊疽の患者さんに対して全国一の治療経験数が有し、93%の良好な下肢切断回避率を得ています。
 これらの新しい治療法を通じて創傷治癒学の基礎、治療指針を学び、さらにこれらの治療法を総括して日本ではまだ正式には存在していない専門医である足病医としての知識を学ぶことができます。

心エコーグループ

 心エコーは循環器疾患のすべての領域で、診断・治療に欠くことのできない検査法です。ルーチン検査は、経胸壁心エコー、経食道心エコー、負荷心エコーを含めて年間約10,000件行っています。
 臨床では多彩な症例を経験することが可能であり、実際の臨床現場において診断・治療に役立つ心エコーのとり方を修得することを目標としています。毎週月曜日に症例検討会を行い判断に困る症例や複雑な症例の検討を行っています。心臓血管外科とのコラボレーションも積極的に行っています。
 教育面では、当院は超音波研修施設に認定されており、研修医、専修医には超音波専門医・指導医、技師は超音波検査士の資格がとれるような指導プログラムを作成しています。
 研究対象疾患は循環器領域の多岐にわたり、心不全領域では、心・肺疾患による左右心不全の軽症から重症例の右心機能評価、左心室と右心室のスペックルトラッキング法によるdyssynchronyの解析、虚血性心疾患では、postsystolic shorteningの応用を行っています。
 不整脈領域では、スペックルトラッキング法による解析を用いて、心房細動のアブレーション後の予後規定因子についての検討なども行っています。

集中治療グループ

 付属病院集中治療室(CCU)は昭和48年に開設され、我が国でも有数の歴史と実績を誇り、指導的立場にあります。集中治療グル―プは集中治療室に専従し、急性心筋梗塞、急性心不全、緊急大血管、重症不整脈疾患などの循環器救急疾患の治療を行っています。さらに併存する呼吸不全、腎不全、肝不全、敗血症などの重症病態に対しても、人工呼吸、補助循環、持続的血液ろ過透析など機械補助を駆使し救命にあたっています。当院集中治療室は日本集中治療医学会認定研修施設であるだけでなく、麻酔専門医、呼吸器専門医、心臓血管外科専門医、感染制御医、臨床工学技士などと連携する独特な集学的治療体系が充実しており、全身管理を学ぶには絶好の場です。
 集中治療を必要とする患者は年々増えていくことが予想され、国家的に集中治療医の育成が問題になっています。我々も集中治療医の育成、教育に積極的に参画し、他施設からの専門医研修に門戸を開いています。主な研究のテーマは、補助循環装置の至適管理、バイオマーカによる病態解明、蘇生後循環管理、心不全への持続的腎代替療法で、国内外での学会、論文報告として成果を発表しています。