1.異状死に関する統計学的研究

・孤立死の実態に関する統計的研究
単身者が自宅で死亡し死後発見されるいわゆる「孤立死」が、社会的に大変注目されています。孤立死事例は死後に発見されるという経緯から、必然的に異状死として取り扱われ、法医学者が検案・解剖する機会は多いです。そこで、予防対策に資することができる知見を得ることを目的に、孤立死の実態について統計的に調査することを進めています。
hoi2東京都区部の孤立死発生率
 男性孤立死の発生率は、23区の東部地域で有意に高いことが判明している。
・異状死の地理空間分布に関する研究
突然死、自殺、事件・事故などさまざまな死亡の様態が含まれている異状死(unnatural death)の中には、その発生予防の施策が進められるべきものも少なくありません。こうした異状死の空間的地域的リスクの有無を明らかにするため、異状死の地理空間分布の取得や解析方法に研究を進め、法医学ならび公衆衛生学的観点からの応用を図っております。
・異状死データベースに関する研究
検案や解剖で取得した異状死の情報は、医学や公衆衛生学の向上に資する重要な基本データになり得るものです。そこで、これら法医実務の過程で得られた各種情報を網羅的に収集・活用できるデータベースの設計、維持、保守に必要な基盤技術の開発を進めております。

2.法疫学

法疫学(forensic epidemiology)は、刑事および民事的な法律上の問題において、特定の因果関係の評価や医学研究を解釈する際の、医科学と疫学それぞれの方法やデータの相違と、法律が求めている概念を適切に理解した上で、科学的に妥当な因果推論を法的証拠として提供するための枠組みを追求する領域といえます。
日本ではあまり馴染みがない学問分野ですが、当教室では、日本における法疫学の発展興隆に貢献すべく、法疫学の基本的研究を推進しております(☞法疫学研究会)。


3.法医中毒学、法中毒学

・薬毒物の新規分析法の開発
最近の薬物分析の技術は著しく進化しています。新しい技術を取り入れ、法医学分野のニーズに沿った新しい薬毒物分析法の開発を目指します。

・法医学の視点に立った薬物代謝及び分布に関する研究
法医学分野では、薬物使用の証明のほか、服用量・時間の推定など、臨床とは異なる視点で薬毒物分析を実施しています。そのため、法医学独自の視点で分析法を検討する必要があります。活性がなくても消失の遅い薬物代謝物を探求したり、臓器・毛髪などの薬毒物分布を調査したりすることで、より多くの情報が分析で得られることを目指します。
hoi1睡眠薬ゾルピデムの代謝物の法医学的応用

4.法医診断の応用・開発 

新しい法医診断技術の開発として、以下のテーマで研究を進めています。
・核磁気共鳴(NMR)技術の法医学的応用
・死体温度からの死後経過時間推定に関する研究