2017年6月22日
理化学研究所
日本医科大学
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センターの内匠透シニアチームリーダー、日本医科大学大学院医学研究科の鈴木秀典教授らの共同研究グループは、モデルマウスを使った実験で、発達期のセロトニン[1]が自閉症発症メカニズムに関与する可能性を明らかにしました。
自閉症(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーション能力の欠如や繰り返し行動が特徴的な発達障害の一つです。症状は対処療法によって和らぐ場合もありますが、生涯にわたり表出します。家族は自閉症患者の保護や介護に多くの時間と労力を費やすため、社会的・経済的困難を抱えます。そのため自閉症の症状を緩和させる療法の発見に向けた原因解明が社会的に強く求められていますが、自閉症の発症メカニズムはほとんど分かっていません。自閉症患者の中にはゲノム異常を持つ人が見つかっており、なかでも15番染色体において重複異常が頻出することが知られています。また過去の研究で、自閉症患者の脳内において神経伝達物質のセロトニンが減少していることが示されていました注1)。しかし、ゲノム異常やセロトニン異常がどのように自閉症につながるのかは分かっていませんでした。
今回、共同研究グループはヒトの15番染色体重複と同じゲノム異常を持つモデルマウス(15番染色体重複モデルマウス)を解析したところ、脳内セロトニンの減少に関連して、セロトニンの供給元である中脳の縫線核の働きが低下していることや、セロトニン神経の投射先である大脳皮質(体性感覚皮質バレル野)での感覚刺激の応答異常を発見しました。また、発達期に重点をおいた薬理学的なアプローチでモデルマウスの脳内セロトニン量を回復させることにより、縫線核と大脳皮質の電気生理学的異常を改善させることに成功しました。さらに、15番染色体重複モデルマウスの成長後にセロトニン量を回復させることで、社会性行動異常も改善することが分かりました。
本成果は、発達期におけるセロトニンの重要性を示しているだけでなく、バイオマーカーとしての脳内セロトニンの役割や自閉症治療に関わる新たな知見をもたらすものと期待できます。
本研究は、米国のオンライン科学雑誌『Science Advances』の(6月21日付け:日本時間6月22日)に掲載されました。
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(S)「自閉症の生物学的統合研究」と科学技術振興機構(JST)戦略的総合研究推進事業(CREST)「精神の表出系としての行動異常の統合的研究」(研究代表:内匠透)の支援を受けて行われました。
注1)Chandana et.al. J. Dev. Neurosci (2005)