2021年3月9日
慶應義塾大学医学部
日本医科大学
国立がん研究センター
防衛医科大学校
日本医療研究開発機構
慶應義塾大学病院臨床研究推進センターの菱木貴子専任講師、医学部医化学教室の山本雄広専任講師、加部泰明准教授、末松誠教授および日本医科大学大学院医学研究科生体機能制御学分野の本田一文大学院教授、国立がん研究センター研究所の平岡伸介部門長のグループは、手術により摘出した卵巣がん組織における活性硫黄種の一つであるポリスルフィド(PS)を表面増強ラマン散乱イメージングによって世界で初めて検出することに成功しました。これにより、ポリスルフィドが高い値の症例では、手術後に行われる白金製剤などの化学療法の効果が低下し、長期予後が悪化することを明らかにしました。
卵巣がんはCTなどで診断がつくと両側卵巣、卵管、子宮などを一括して摘出したのち(腫瘍減量手術(Debulking surgery)、白金製剤を主体とした強力な化学療法を行います。今回、病理組織で明細胞がんと診断された症例では化学療法の効果に大きなばらつきを認めました。末松教授の研究チームは、1)難治性症例の(卵巣)がん組織では細胞保護作用を持つ活性硫黄種の一つであるPSを大量に生成していること、2)PSには他の活性硫黄種と異なり白金製剤のDNA架橋反応による治療効果を無力化する作用があること、3)去痰剤として臨床で広く使われているAmbroxolはPSの分解作用を通じて卵巣がんの薬剤抵抗性を解除する作用を示すことを発見しました。
本研究成果は、2021年3月2日(英国時間)にElsevierの科学誌『Redox Biology』のオンライン速報版(In Press)で公開されました。