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皮膚がん(癌、悪性腫瘍)と治療のやさしい解説

皮膚がんとは

 皮膚がんとは、皮膚を構成する様々な細胞が慢性的な刺激によってDNA損傷を修復することができずに発生する細胞の制御不能な成長です。慢性的な刺激とは、紫外線曝露、ウイルス感染、外傷(ヤケド、怪我)、放射線治療などであり、傷ついた細胞の修復が追いつかなくなると、ある時突然に「がん」が発症します。

皮膚がんの見た目

皮膚がんの種類

 皮膚がんは体の表面(顔などの患者さん自身で見える場所)にできるので、内臓がんや血液のがんなどに比べると、初期に発見することができるがんと言えます。しかし、がんといっても痛みやしびれといった症状がでることは稀であるため、いわゆる進行がんなってから治療に訪れる患者さんも数多くおられます。ほとんど転移を起こすことのない基底細胞癌、放っておくとがんが発症する可能性のある前癌病変(日光角化症ボーエン病など)から、一般に転移するスピードが早い悪性黒色腫メルケル細胞癌まで、あらゆる皮膚がんを当センターでは対応しております。適切な診断のもと治療方針の利点やリスクをお伝えし、最適な治療を選択して頂きたいと考えております。

皮膚がん見分け方検査診断

 皮膚がんの治療は外科的に切除することがほとんどですが、診断目的にダーモスコピーという拡大鏡を用いたり、リンパ節や他臓器へ転移している可能性を疑えば超音波、CT、MRIやPET-CTなどの画像検査を行う必要があります。またがんを疑った場合に腫瘍の一部を切除して病理検査(腫瘍の種類を決定するために行う細胞の検査)を行い、診断を行ってから手術を行うこともあります。いつも全ての検査を必要とするわけではありませんが、適切な治療を選択していただくためにこのような検査を受けていただく場合があります。

皮膚がんの診断1205図)適切にがんを治療するためには、がんの種類、拡がりを正確に知る必要があります。患者さんの患った腫瘍の状態に応じて必要な検査を行います。

有棘細胞癌

 「ジュクジュクした赤い盛りあがり」のように見えることが多く、独特な“臭い”がします。主に紫外線や治らない湿疹(下図の前癌病変)が原因で発症します。顔のデッパっている箇所(頭部、鼻、耳、唇、瞼まぶた)にできることが多く、皮膚の有棘層という部位に生じるため有棘細胞癌と呼ばれます。前癌病変であれば「治らない湿疹、カサカサ」として自覚されると思いますので、月単位、年単位に完治しない湿疹がありましたら医療機関を受診してみてください。

有棘細胞癌201205

有棘細胞癌201205-2

基底細胞癌

 「ホクロのような黒い盛り上がり、テラテラした光沢があるホクロ」ように見えることが多い皮膚がんです。有棘細胞がんと同様に顔面に発生することが多く、皮膚の基底層にある基底細胞の形に似ていることから基底細胞癌と呼ばれます。基底細胞癌は転移をすることは極めて稀ですが、確実に切除しないと局所再発(同じような箇所に再発)するばかりでなく周囲に浸潤(皮膚の深くまで癌が拡がる)することになります。基底細胞癌の浸潤は局所破壊が強いことがあり(筋肉、骨まで及ぶこともあります)、これを防ぐためにしっかりと初回手術で取り切ることが大切になります。

1基底細胞癌

2基底細胞癌

悪性黒色腫

 「歪(いびつ)な形のホクロやシミ、爪の中に黒い縦に伸びる筋」として認めることがあります。視診(見た目)や拡大鏡(ダーモスコピー)で悪性黒色腫が疑われた場合、超音波でがんの厚みやリンパ節の腫れを確認してから治療方針を決定します。進行癌であると考えられた場合CT、PET-CT、MRIなどを用いて腫瘍の拡がり(どれほど悪いものなのか)を精査します。これまでの検査で悪性黒色腫と確定できない場合は全摘生検という目に見えるできものを全て切除して顕微鏡検査で診断をしたうえで、段階的に治療をすることもあります。
悪性黒色腫    

 掌(手のひら)や足の裏にあるほくろが、がんではないか気になったことありませんか。ただ、ほくろと悪性黒色腫をセルフチェックして見分けるのは容易ではありません。確かに、日本人の足には悪性黒色腫ができやすい傾向にあります。しかし、足の裏にある黒いできもののほとんどは良性のほくろです。そこで、見た目の特徴から悪性黒色腫を疑うサイン(ABCDEルール:下図)というものがありますので参考にしてください。

悪性黒色腫2

 また悪性黒色腫には「結節型」「悪性黒子型」「表在拡大型」「末端黒子型」4つのタイプがあります。日本人は手足の末端黒子型が多く、趾や指、爪などが刺激を受けていることが多い、あるいは受けやすいのが原因の一端ではないかと考えられています(原因は未だ不明です)。したがって、先ほどのABCDEルールに加えて大人になってから爪に黒い線が出てきたという所見がありましたら医療機関を受診する目安になると思います。

(手術以外の治療方法)

 リンパ節を含め転移を認める悪性黒色腫に対して、免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬という新しい治療が選択できるようになりました。従来の抗がん剤に比べて効果が高く、副作用も比較的少ない治療法になります(免疫力を高めるあまり自己免疫疾患に似た副作用を起こすことがあります)。
 免疫という言葉をご存知でしょうか。異物が体の中に侵入した際、異物を貪食したり抗体を作り出して異物を排除するシステムです。私たちの体に備るこの免疫ですが実は“がん”に対しても効果があります。しかし免疫を司るT細胞が働きすぎて疲弊するとがんに負けてしまいます。がん細胞も生き残ろうと必死になっているため免疫が働くのを邪魔しているわけです。免疫療法はこの免疫の機能を高めたり(賦活化)、がん細胞が免疫から逃げられないようにする治療になります。また、悪性黒色腫が発がんする際にBRAF遺伝子(さらにMEK遺伝子)の異常が原因である場合があります。その際はBRAF阻害剤やMEK阻害剤という分子標的薬を使用します。

乳房外パジェット病

 主に外陰部(陰部や肛門付近)に発症する汗管に由来すると考えられている(いまだに起源は分かってはいません)皮膚がんです。ご高齢の方に多く非常にゆっくり、年単位で拡大をしていきます。外観は上述のボーエン病のように“たまに痒くなる治らない湿疹”として認識していることが多いかと思います(厳密には色素斑や脱色素斑として、湿疹様部位を超えて拡大していることが多いですが)。痛みがなく、あるいはできた場所が恥ずかしいからと躊躇するために広範囲に拡大してから医療機関を受診することが多いのも特徴です。

乳房外パジェット病 外陰部には直腸、膀胱、子宮など様々な臓器が隣接しています。これら臓器に発症したがんが皮膚に進展することで、外見上はパジェット病に見えることがあります(パジェット現象)。術前に組織検査や細胞の検査を行い、原発(どの部位から発症したがんなのか)を決定してから治療を行います。また肛門部に及ぶ場合、一時的にあるいは永久的に人工肛門の作成を勧める場合や姑息的に放射線治療を選択する場合もありますので、状態に合わせた説明を提示しご納得いただいた上で治療をして参ります。

皮膚がんの切除方法と再建(欠損を埋める手術)

 転移していない皮膚がん治療の第一選択は手術であることがほとんどです。いずれのがんにも言えることですが、最初の手術でしっかりと腫瘍を取り切ることです。そのため一見正常に見えてもがん細胞が浸潤している可能性のある周囲の組織を併せて切除します。取り切れていることが顕微鏡の検査で確認された後、可能な限り術前に近い整容性(見た目)や機能性(目を開けたり、口をすぼめたり、呼吸をするなど)を考慮した再建術(がんを切除してできた穴を埋める手術)をします。人工の皮膚、別の箇所からの皮膚移植、周囲の組織を使った皮弁術などを組み合わせて行います。

皮膚がんの切除方法と再建(欠損を埋める手術)

【手術】

 腫瘍そのものと、腫瘍が拡がっている可能性がある周囲の皮膚を併せて切除します。病理検査で詳細な診断がされた後、追加で切除が必要と判断されることもあります(取り切れていない、悪性度が強い組織であったなど)。また転移のある場合には転移した場所の腫瘍切除も考慮します。
 切除した箇所は、小さければ縫縮(そのまま縫い合わせる)する場合もありますし、深い欠損部に人工の皮膚(人工真皮)でカサ増しをしておいて病理検査を待つこともあります。病理検査でがんが取り切れていると判断され、なおも皮膚に欠損がある場合、植皮術(耳周辺や鎖骨部、お尻や太ももなど)や皮弁術(周りの組織を使って元に近い形態を作成する)を用いて、可能な限り術前に近い見た目と機能を取り戻していただこうと努めております。

1.がんの切除(十分に)

がんの切除

2.単純縫縮(左)、人工皮膚(真ん中)、植皮(右)

単純縫縮・人工皮膚・植皮

3.皮弁術(術前に最も近い質感)皮弁術質感

【センチネルリンパ節生検、リンパ節郭清】

 がんの細胞がリンパ管を通る際に、最初に転移を生じる可能性があるリンパ節をセンチネルリンパ節と呼びます。リンパ節転移を起こしやすいがんや、浸潤性が強い状態であると判断した場合でかつ画像の検査では明らかなリンパ節転移が発見されない際にセンチネルリンパ節生検を考慮します。センチネルリンパ節が陽性である(リンパ節に転移がある)場合や画像検査で明らかにリンパ節転移を認めた際には領域のリンパ節を広く切除するリンパ節郭清が必要になることがあります。

皮膚がん薬物療法放射線療法

 遠隔転移がある場合や腫瘍の切除が困難である場合など、外科治療の他に放射線治療や化学治療(薬物を使用した治療)を行うことがあります。昔ながらの、いわゆる抗がん剤は皮膚がんに効果を発揮することは期待できませんでしたが、患者さんの免疫を賦活化する免疫チェックポイント阻害薬や、それぞれのがんの原因であるタンパク質を狙い撃ちにする分子標的薬などの新薬で、これまで選択肢の乏しかった進行がんに対しても遺伝子検査の進歩によって効果的な治療が提供できるようになってきました。患者さん一人ひとりに合った最善の治療法を提示できるよう努めておりますのでいつでも担当医にご相談ください。