子宮内膜症が心配な方
子宮内膜症とは、子宮内膜という組織が、子宮の外で増えてしまう病気です。本来、子宮内膜は子宮の内壁の一番表面にあって、卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンによって増殖し、妊娠する準備をしています。妊娠がおこらないと、月に1回子宮から剥がれて出血し、生理となります。子宮内膜症があると、子宮内膜からの出血が子宮以外の場所、たとえば卵巣や腸の腹膜でおこり、卵巣、卵管や腸が癒着したり、卵巣内にチョコレートのう胞と呼ばれる卵巣のう腫ができます。
子宮内膜症は痛みと不妊が主な症状の病気で、近年の女性のライフスタイルや価値観の多様化により増加しています。長い女性の一生で、子宮内膜症は生理が順調にくる、いわば女性にとってもっとも充実した時期におこります。しかもなかなか完全には治らず、閉経を迎えるまでうまくつきあっていかなくてはならない病気です。ですから、日本医科大学女性診療科では、患者さんご自身がよく子宮内膜症のことを理解し、年齢や環境、どの症状が一番辛いのか、妊娠をいつ考えていくのかなどを十分に考えながら、自分のライフスタイルに合わせた治療法を選択していけるよう、お手伝いしていきます。
日本医科大学女性診療科で特に力をいれている治療法について
- 手術療法では、体に優しく美容にも優れた腹腔鏡(ふくくうきょう)手術があげられます。卵巣にのう胞ができてしまった患者さん、不妊が疑われる患者さんには積極的に行っています。
- 薬物療法も子宮内膜症には有効ですが、どれも副作用の心配があります。当科では、体への負担を抑えながら長期にわたり子宮内膜症をコントロールできる工夫として、GnRH漸減療法や低用量ピルをお奨めしています。
- 以下に患者さんから寄せられるご質問に答える形で当科における治療指針をご説明いたします。
どんな症状があるのでしょうか?
代表的な症状は痛みと不妊です。特に生理痛は特徴的です。進行すると生理の時以外にも下腹部痛や腰痛、さらに排便痛や性交痛を訴えるようになります。生理時にはこれらの痛みがさらに悪化し、寝込んでしまう女性も珍しくありません。
また、不妊の女性の30%程度に子宮内膜症が合併しているといわれ、不妊治療が飛躍的に進歩した現在でも大きな課題となっています。さらに、卵巣にできたチョコレートのう胞は卵巣癌になりやすいことがわかってきたので、大きくなってきたら手術で取り除く必要があります。
どんな女性がかかりやすいのですか?
子宮内膜症は多くは20代半ばで発病し、35歳位でピークに達します。これらの症状は閉経を迎えると卵巣からのホルモン分泌がなくなり、子宮内膜症の症状も治まってきます。すなわち、子宮内膜症は生理がある女性にのみみられるわけです。ですから、若いうちから何人もお産している女性はかかりにくいといえます。近年の女性のライフスタイルの変化による晩婚化、少産化のためにその数は増加しており、我が国では生理がある女性の10人に1人位がかかっているといわれています。
早期発見のポイントはありますか?
子宮内膜症は、初期は生理時以外には強い症状はありませんが、病勢が進むと腰痛や下腹痛、性交痛、排便痛などが出現します。従って早期発見のポイントは次第に悪化する生理痛といえましょう。なかなか子供に恵まれない方も一度婦人科で子宮内膜症の有無をチェックすると良いでしょう。また、遺伝性があると言われていますので、お母さんや姉妹が子宮内膜症を患ったことがあれば、早めに産婦人科を受診した方が良いでしょう。
診断にはどんな検査が必要ですか?
まず細かく問診をとります。そして内診で子宮、卵巣の可動性や痛みの有無をチェックします。その後超音波検査で子宮や卵巣の腫大の有無を調べます。腫大している場合にはMRIでさらに細かく診断していきます。また、血液中のA125やCA19-9(これらを腫瘍マーカーといいます)が子宮内膜症で増加してくるので、血液検査も施行します。
治療の方法と、指針について教えてください
治療法は大きく分けて手術療法と薬物療法があり、それぞれ一長一短があります。治療にあたって、痛みの改善、生理の出血量の管理、病巣の摘出とともに、不妊症があればその治療を念頭におかなければなりません。ですから、患者さんの年齢、症状の重症度、進行度、さらには妊娠希望の有無に応じて治療法を患者さん別に選んでいく必要があります。下図に当科における治療指針の流れを示します。卵巣にチョコレートのう胞があるかないか、不妊の訴えがあるかどうかで薬物療法か手術療法を選択しています。
子宮内膜症の治療指針
(1)手術療法
できるだけ腹腔鏡(ふくくうきょう)手術をお薦めします。腹腔鏡とはお腹の中をみる内視鏡のことで、通常のお腹を切る手術と較べて傷が小さく痛みも少ないので、術後とても楽なうえ美容上とても優れています。さらに腹腔鏡は対象を拡大してみることができるため、子宮内膜症のように骨盤の深いところに病巣がある手術にはとても優れているのです。ただし、腹腔鏡手術は熟練を要するため、経験の豊富な医師によって施行されるべきです。当科では日本産科婦人科内視鏡学会技術認定を受けた医師が3名おり、手術には必ず入ることになっています。
手術法も妊娠の希望の有無で変わります。妊娠を希望する場合には卵巣や卵管をできるだけ本来の形・位置関係に戻す必要があります。すなわち卵巣チョコレートのう胞を取り除き、癒着をはがし、病巣を焼き切ります。これらの操作は痛みの除去にはとても有効です。一方、妊娠を希望しないケースで頑固な痛みがある場合には、子宮を取る方法を選ぶこともあります。
(2)薬物療法
薬物療法には、主に痛みをおさえるための対症療法と、子宮内膜症の進行を止め、病巣を萎縮させるホルモン療法に大別されます。
対症療法にはいわゆる解熱鎮痛剤が主に用いられ、生理痛などに有効です。将来妊娠を考えている若い方に特にいい方法であるといえますが、子宮内膜症の進行を防ぐ作用はありません。やはり病状がある程度進行したらホルモン療法にきりかえる方が望ましいといえましょう。
ホルモン療法にはGnRH作動薬またはダナゾールという薬を用いて、卵巣ホルモンを閉経の状態にする薬と、ピルを用いて妊娠した状態にする方法があります。それぞれ一長一短があるので、よく相談して目的や体質によって使い分けることが大切です。
GnRH漸減療法とはどんな方法ですか?
GnRH作動薬は子宮内膜症でまず始めに試みられる薬です。GnRH作動薬は卵巣ホルモン分泌を抑え、体を閉経の状態にします。この間は排卵がおこらず、生理も来ません。主な副作用として、のぼせ、ほてり、頭痛などの更年期症状がでてきます。さらに何回も反復して用いると骨が折れやすくなる骨粗鬆症の心配がでる場合があります。ですから、通常4~6ヶ月しか投与できません。漸減療法はこのGnRH作動薬の量を半分から3分の1にすることにより、不快な更年期症状を抑えつつ、子宮内膜症を長期にわたりコントロールしていく方法です。生理もあってもとても軽く、患者さんの生活の質はとても高くなります。特にいろいろな治療を受けた方、閉経に近い年齢の方には有効です。
低用量ピルが有効と聞きましたが
もうひとつのホルモン療法、すなわちピルを用いる方法も古くから子宮内膜症に使われてきました。
その効果はGnRH作動薬やダナゾールほど安定したものではありませんが、子宮内膜症は多くの場合痛みに対して長期間の投与が必要とされるので、骨への影響が少ない低用量ピルは特に再発例などに魅力的な方法です。主な副作用として血栓症や肝機能障害などがあり、特に喫煙する方と血圧の高い方は要注意でしょう。
卵巣チョコレートのう胞は癌化しやすいと聞きましたが
卵巣チョコレートのう胞は普通の卵巣組織より23倍も癌化しやすいといわれています。また、年齢が40才以上の方や、若くてもチョコレートのう胞の直径が10cm以上あるものは、特にリスクが高まるといわれています。図に当科における卵巣チョコレートのう胞の管理指針をまとめました。
卵巣チョコレートのう胞の管理指針
*1: 卵巣の健康な部分を残し、病巣だけを取り除く手術です。MRI、超音波、腫瘍マーカー等の検査で悪性を疑う所見がない限り、腹腔鏡下での手術をお薦めしています。
*2: 付属器とは卵巣と卵管を指し、病巣の存在する側の卵巣全てと卵管を取り除く手術です。
*3: 腫瘍マーカーの値や、妊娠の希望の有無、反対側の卵巣などの状況により、どちらかを選びます。
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