診療内容

診療概要

原発性肺癌

原発性肺癌は、臨床的に小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分類されます。手術適応となるのは、通常I期、II期、および一部のIIIA期の非小細胞肺癌と、I期の小細胞肺癌です。標準的な手術術式は肺葉切除術と縦隔リンパ節郭清(標準手術)ですが、小型肺癌の増加に伴い、画像所見や腫瘍の位置に応じて、区域切除術や楔状切除術といった縮小手術が選択されるケースが増えています(積極的縮小切除)。高齢者や低肺機能・低心機能など身体条件が制限される患者には、根治性がやや低下する可能性があっても、機能温存を優先して縮小手術を行う場合があります(消極的縮小切除)。いずれの場合も、安全性、根治性、低侵襲性のバランスを最大限考慮して手術方針を決定します。術後の在院日数は35日程度で、術後合併症も少なく、早期退院が可能です。

当院では呼吸器内科や放射線治療科と連携し、周術期の補助薬物療法を適切に提供しています。また、手術単独で根治が難しい局所進行肺癌(隣の臓器への浸潤や、縦隔リンパ節転移を有する肺癌)に対しては、薬物療法や放射線療法を組み合わせた集学的治療を積極的に行っています。

転移性肺腫瘍

近年、化学療法や分子標的治療の進歩により、転移性肺腫瘍の手術件数は減少傾向にあります。しかし、化学療法抵抗性の腫瘍に対しては、外科的切除が治療の一環となることもあります。これにより、腫瘍の分子生物学的特徴を解明し、次の治療戦略を立てるための重要なデータを得ることができます。低侵襲な切除と適切な薬物療法を組み合わせることで、治療全体の成績を向上させることが期待されます。

縦隔腫瘍

 縦隔腫瘍では、最も多い疾患が胸腺腫です。筋無力症を伴う場合や、悪性度の高いType B3およびType Cでは、胸骨正中切開による胸腺腫および(拡大)胸腺全摘術を行っています。術前・術中に病型を正確に診断するのが困難な場合もあり、病巣の広がり、PET所見、血管との関連、筋無力症の有無(抗アセチルコリンリセプター抗体値)を考慮し、患者と相談の上で手術方法を決定します。片側からの胸腔鏡手術の場合でも悪性度が高い場合や浸潤性が強い場合には、両側からの胸腔鏡手術や胸骨正中切開を追加することがあります。胸骨正中切開の場合、術後1週間程度の入院が必要ですが、胸腔鏡手術では術後5日間程度の入院で退院可能です。他の良性縦隔腫瘍では、通常胸腔鏡下(3ポート)で腫瘍摘出術を行い、術後3~5日で退院が可能です。

自然気胸・嚢胞性肺疾患

自然気胸は若年男性(20歳前後)に多く発症する嚢胞性肺疾患であり、嚢胞破裂により胸腔内に破裂部位から胸腔内に呼吸した空気が流入し貯留した状態です。一般的には初回で軽度の場合は安静加療が基本ですが中等度以上の場合は胸腔ドレナージが必要となります。手術適応はドレーン挿入後5日以上肺瘻(肺からの空気漏れ)持続、再発を繰り返す例、両側気胸例、血胸併発例、社会的適応などです。若年者の気胸は術後2日目に退院可能ですし、安全性の高い手術です。また、中高年の気胸では肺気腫、間質性肺炎、腫瘍を合併した続発性気胸といわれる病態が頻度として高くなります。特に肺気腫を伴う場合、病巣が多発、難治性で再発や肺瘻が持続することも多く、治療には難渋することがありますが、基本的には手術による治療を第一選択としております。女性の気胸は比較的まれですが、月経随伴性気胸(月経周期と関連)や遺伝性のあるリンパ脈管筋腫症(続発性気胸)がありますが、治療に関してはご相談ください。

縦隔腫瘍

もっとも頻度の多いのは胸腺腫であり、筋無力症などの合併症を有する場合や悪性度の高いTypeB3およびTypeCでは胸骨正中切開による胸腺腫および胸腺全摘術を施行しています。しかし術前および術中にその病型を決定するのは困難な場合もあり、病巣の広がり、PET所見、血管との関連、筋無力症の有無を考慮し、患者さんと相談して手術方法を決定しています。片側からの胸腔鏡手術の場合でも悪性度が高い場合や浸潤性の強い場合や拡大胸腺摘出術が必要な場合は両側からの胸腔鏡手術または胸骨正中切開を加える事があります。胸骨正中切開では術後1週間程度、胸腔鏡手術では術後5日間の入院が必要です。
その他の良性縦隔腫瘍においては基本的に胸腔鏡(3ポート)下腫瘍摘出術を施行しています。術後3~5日で退院可能です。

急性膿胸

急性膿胸に対しては、早期(3週間以内)に胸腔鏡下手術を施行することで、術後約1週間程度で退院可能です。急性期保存的治療、特に1週間で改善がみられない膿胸は胸腔鏡下に洗浄し、内部の醸膿胸膜を切除することで比較的容易に根治が期待できます。もし保存的治療後に再発すると内科的治療が困難であるだけなく、外科的侵襲も大きくなり、そのメリットは半減してしまいます。このため早期に胸腔鏡による手術を施行し根治させることが効果的な方法と考えています。

当院の特長

集学的治療チーム(MDT)による臓器別診療の実践

肺癌治療においては、進行度に応じて手術・放射線治療・薬物療法などを適切に組み合わせた集学的な治療が必要です。また、併存疾患や身体能力、社会的背景を考慮した代替療法の検討も重要要となります。これには専門領域を超えた総合的な判断が求められるため、当院では放射線科診断医・治療医、病理医、サイコオンコロジストなどと密接に連携し、集学的治療チーム(MDT)が診療を行っています。また当院ではエビデンスに基づく診療ガイドラインに則り、以下のような診断・治療を提供しています。

  • ・診断と病期評価:胸部CTMRIFDG-PET/CT、経気管支肺生検、CTガイド下肺生検、胸腔鏡下肺生検など。
  • ・局所進行肺癌:手術単独で根治が難しい場合には、薬物療法や放射線療法を併用した集学的治療を積極的に実施。
  • ・進行肺癌やその他悪性腫瘍:呼吸器・腫瘍内科と協議し、薬物療法や放射線治療を適用。また、支持療法や緩和ケアが適切と判断される場合には、患者のQOLを重視した治療を提供します。

 集学的治療チームが患者一人ひとりに最適な治療を計画し、総合的な医療を提供します。

胸腔鏡手術の実際

胸腔鏡下手術は、胸部に0.51.5cm程度の小さな切開を複数箇所設け、胸腔鏡というカメラで胸の内部を観察しながら行う低侵襲な手術です。当院では、疾患や術式に応じて安全性、根治性、低侵襲性のバランスを最大限考慮したうえで臨機応変にそのアプローチを選択しています:

  • 胸腔鏡補助下手術(Hybrid VATS):肺癌の肺葉切除や区域切除で主に使用。56cmの小開胸を併用し、肋骨や筋肉を切らずに手術を行います。
  • 完全胸腔鏡下手術:縮小切除適応となる小型肺癌の部分切除、自然気胸や嚢胞性肺疾患に対する肺切除、縦隔腫瘍切除などに適用。52cmの小切開を3つ使用して行います。

これらの手術は従来の開胸手術に比べて傷が小さく、痛みが少ないのが特徴です。患者の身体への負担を大幅に軽減し、低侵襲性を実現しています。

また、当院ではエビデンスに基づいたクリニカルパスを導入しており、以下のように短期間の入院を基本としています。

  • 入院スケジュール:手術前日に入院し、併存症がなければ短期間での退院が可能です。
  • 気胸手術:術後2日で退院。
  • 肺癌手術:術後35日で退院。

このように、患者の負担軽減と早期社会復帰を目指した治療体制を整えています。

手術件数

2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
(11/30まで)
原発性肺癌 55 58 77 72 84
転移性肺腫瘍 11 10 9 17 14
縦隔腫瘍 4 11 6 5 4
気胸 29 37 34 29 35
その他 18 17 26 34 26
合計 117 133 152 157 163

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