頭頸部悪性腫瘍用語解説

喉頭癌

のど仏の内側周辺にできる癌のことです。声がかれる嗄声(させい)やのどの違和感が初期症状です。頭頸部癌の中で最も多い疾患で、男性に多く、喫煙との関連性が指摘されています。

治療は早期癌であれば放射線治療または機能を温存した手術、進行癌では手術を行うのが一般的です。

早期癌であっても治療後の再発の危険性はありますが、再発後の救済は可能な場合も少なくありません。喉頭を全部摘出する手術を受けると、肉声を失うことになりますが、食道発声や電気喉頭を用いたコミュニケーションの方法はあります。

舌・口腔癌

口の中にできる癌のことです。飲酒や喫煙とともに口腔内の衛生状態や歯牙の状態が関係しているといわれています。口の中は簡単に観察できるため腫瘤を自覚して受診される方が少なくありません。持続する口腔内の痛みも要注意です。

治療は、早期癌には手術か放射線治療(小線源治療)を行うのが一般的です。進行癌の場合、手術を行うのが一般的です。拡大切除を行った場合、遊離組織移植を行い口腔内の欠損を再建する必要があります。

手術後は切除の範囲によっては構音、咀嚼、嚥下障害を生じます。リハビリテーションを行い、術後QOLの低下を最低限にする努力も必要です。

上咽頭癌

鼻の奥で、のどの天井にあたる部位に生じる癌です。この部分の特有の症状がなく周辺の臓器の症状が出現してはじめて気がつく場合が少なくありません。そのような症状の代表的なものに耳痛、難聴、頭痛、鼻出血、鼻閉、複視、頸部腫瘤があります。

治療としては放射線治療と化学療法を行います。手術治療が行われるのは特殊な場合のみです。最近は化学療法併用放射線治療を行うことも多くなっています。

中咽頭癌

扁桃腺や舌の奥に生じる癌です。持続する咽頭痛や頸部腫瘤で気付くことが大多数を占めます。同じ中咽頭癌であっても、口蓋扁桃に生じた癌と舌の奥に生じた癌では性格がかなり異なるため、それぞれの状態に応じた対応が必要になります。

治療は早期癌では放射線治療や手術治療、進行癌では手術治療を行うのが一般的です。

下咽頭癌(頸部食道癌)

食道の入り口に生じた癌です。男性で長年にわたりたくさん飲酒した人、女性で鉄欠乏性貧血のある人に多い傾向があります。のどの痛みや声がれ、頸部腫瘤がその症状です。

治療は、早期癌の場合放射線治療や喉頭を保存した手術を行い、進行癌では喉頭を含めた摘出手術を行い、欠損した咽頭は遊離組織移植を行って再建します。食道癌などの重複癌の頻度が高いため、合わせて診療する必要があります。

鼻・副鼻腔癌(上顎癌)

鼻および副鼻腔の粘膜に生じる癌です。頭頸部癌の中で5%程度の少ない癌であり、徐々に少なくなっています。鼻出血、鼻閉、顔面や口蓋の腫脹を生じます。

治療は、進行度にあわせて放射線治療と手術治療を行います。治療により顔面の変形、咀嚼・構音障害生じるため、再建手術やプロテーゼ作製を行います。

聴器癌

聞きなれない疾患ですが、“耳”に生じる癌です。聴器は外耳と中耳に分けられるため、外耳癌や中耳癌といわれる場合があります。患者さんも医者も耳に癌が生じることの認識が少ないため、進行癌になって診断される場合が多いのが現状です。

治療の原則は手術です。進行癌の場合、化学放射線治療を行う場合もあります。

唾液腺癌

耳下腺や顎下腺に生じる癌です。良性腫瘍との鑑別と悪性腫瘍の中での悪性度の診断が難しい場合が少なくありません。

治療は腫瘍の進行度、悪性度に合わせた手術が必要になります。癌の根治性に加え、顔面神経麻痺などのQOLを勘案して手術の方法を決定します。手術後に放射線治療を行う場合があります。

甲状腺癌

甲状腺に生じる癌です。女性に多い癌です。

手術で摘出することが唯一の治療です。

悪性度が低く、予後が極めて良いため、他の頭頸部癌とは別の概念で治療する必要があります。

悪性リンパ腫

リンパの悪性腫瘍である悪性リンパ腫が頭頸部に病変を生じることは少なくありません。癌と同じように考えがちですが、病気の特徴、診断法、治療法にはかなりの違いがあります。

診断には耳鼻咽喉科医が大いに関わりますが、悪性リンパ腫と診断された後は、血液内科が中心になって治療を行います。

飲酒と喫煙

飲酒と喫煙は頭頸部癌が発生する危険因子です。喉頭癌の原因として喫煙、中・下咽頭癌、一部の口腔癌の原因としての飲酒は有名です。またそれらは癌治療を行うにあたっても弊害になる場合があります。

喫煙が関係する肺癌、飲酒が関係する食道癌があわせて生じる重複癌も考えておく必要があります。

Quality of life(QOL)

生活の質。声を出すこと、物を噛んで飲み込むこと、顔や頸部の形態がどの程度癌治療によって障害されるかが、頭頸部癌の治療においては問題になります。もちろん、頭頸部癌治療によって失われるQOLは極力少なくしたいと考えますが、癌の治療によりQOLが低下することは避けられません。失われるQOLの程度と癌治療効果のバランスで治療方法を考えることになります。

インフォームドコンセント

癌治療を行う上で、最も重要なことの一つは、患者さんご本人が納得し、満足して診療に臨むことです。そのため、疾患の状況や治療内容について充分説明を受けることが重要です。充分理解できる説明を受けた上で、同意することをインフォームドコンセントと言います。これは決して容易なことではありませんが、頭頸部癌の診療を受けるにあたって重要であり、避けることはできません。

セカンドオピニオン

診療における参考とするために、主治医以外の医師の意見をきくこと、またその意見のことをセカンドオピニオンといいます。本邦でもかなり普及してはきましたが、主治医に対する不満からセカンドオピニオンを求める場合が多く、転院することが前提になってのセカンドオピニオンが多いのが現状です。また、一旦セカンドオピニオンのために他の病院を受診すると、元の病院に受診しにくく感じる方がいますが、セカンドオピニオンをきいてから、元の主治医に戻ることも可能です。遠慮する必要は全くありません。

病理組織診断

頭頸部癌の診断は腫瘍細胞の形態を観察することによりなされます。多くの場合、原発巣から組織を採取(生検)して行います。頭頸部癌の診断に必須な検査です。耳下腺腫瘍や甲状腺腫瘍などでは、穿刺吸引細胞診で代用することがあります。

病期診断

頭頸部癌治療方法を決めるにあたり、病気の進行の程度を評価することが重要です。これを病期診断といい、治療前に内視鏡検査や画像診断(CT検査、 MRI検査や超音波検査)で行います。最近はPET検査を行うこともあります。病期を正しく把握することにより、標準的治療の内容が決まります。

頸部郭清術

頭頸部癌が頸部リンパ節に転移することは少なくありません。手術前の検査で転移していることが明らかになった場合、もしくは転移している可能性が高いと判断できる場合にリンパ節を摘出する手術を行います。これを頸部郭清術といいます。転移リンパ節の大きさ、部位、個数によって、合併切除する臓器が変わります。

以前は、癌の切除を最優先するために内頸静脈や副神経などを合併切除する術式を選択することが多くありましたが、最近は不要な切除を避け、術後のQOL 低下を最低限にする努力をしています。

遊離組織移植

頭頸部癌の手術で切除された部位を補填する必要がある時、体の他の部位から遊離した組織を移植する方法が選択されることが多くなっています。微小な血管を顕微鏡下につなげ、移植した組織の血流を維持する必要があります。

腹直筋皮弁、前腕皮弁、遊離空腸弁などが代表的な移植遊離組織です。

化学放射線治療

手術不能な頭頸部癌や手術によるQOL低下をどうしても避けたい場合に、抗癌剤治療と放射線治療を同時に行います。この方法を化学放射線治療といいます。この方法が頭頸部癌に導入されてから歴史が浅いため、結果が充分でているとはいえませんが、一次効果は期待できます。

重複癌

一人の患者さんに複数の種類の癌が生じることがあり、これを重複癌と言います。頭頸部癌は、他癌に比べてその頻度が高いといわれており、代表的な組み合わせには口腔癌、咽頭癌、食道癌があります。

頭頸部癌の診療において重複癌の有無を調べることは非常に重要です。そのため頭頸部癌の治療前の検査として上部消化管内視鏡検査を行うことがあります。

病名告知

以前は癌の病名告知はタブーと考えられていました。しかし、最近ではほぼ全例に明確な病名告知を行っています。病名を明らかにしないと、治療をするかどうかを決めるための自己決定ができないからです。もちろん、告知の方法には工夫をしなければいけないと考えています。

余命告知

頭頸部癌は治療すれば必ず治るという疾患ではありません。初診時であっても、再診時であっても治癒不可能と考えられる場合があります。このような場合でも、本人に直接的に現状の説明(余命告知)をすることが増えてきています。余命告知を行うことにより、不要な治療で体力を消耗することなく、限られた期間を有意義に過ごすことができる可能性があります。