診療内容
診療概要
原発性肺癌
原発性肺癌は臨床的には小細胞肺癌と非小細胞肺癌に大別されますが、基本的に手術適応となるのは1期、2期および一部の3期非小細胞肺癌です。
臨床病期1期の原発性肺癌に対して3ポート下に胸腔鏡下手術を施行しています。肺葉切除術および縦隔リンパ節郭清が標準手術ですが、高齢者や低身体条件の患者さんには区域切除術や部分切除術を選択する場合もあります。
2期より進行した肺癌や合併切除を必要とする肺癌では基本的には開胸手術(創長10~15cm)を選択しますが、75才以上の高齢者や低心肺機能の患者さんには合併症と根治性を考慮し、手術方針を決定します。
自然気胸・嚢胞性肺疾患
自然気胸は20前後の若年男性に発症する嚢胞性肺疾患であり、嚢胞破裂により胸腔内に破裂部位から胸腔内に呼吸した空気が流入し貯留した状態です。一般的には初回で軽度の場合は安静加療であり中等度以上の場合は胸腔ドレナージが必要となります。手術適応はドレーンを挿入後も5日以上肺瘻(肺からの空気漏れ)が続く場合です。若年者の気胸は術後2日目に退院可能ですし、安全性の高い手術です。
また、中高年の気胸では肺気腫、間質性肺炎、腫瘍を合併した続発性気胸といわれる病態が頻度として高くなります。もっとも頻度が高いのは肺気腫を合併した気胸であり、病巣が多発、難治性で再発や肺瘻が持続することも多く、治療には難渋することがありますが、基本的には手術による治療を第一選択としております。
女性の気胸は比較的まれですが、月経随伴性気胸(月経周期と関連)や遺伝性のあるリンパ脈管筋腫症(続発性気胸)がありますが、治療に関してはご相談ください。
縦隔腫瘍
もっとも頻度の多いのは胸腺腫であり、筋無力症などの合併症を有する場合や悪性度の高いTypeB3およびTypeCでは胸骨正中切開による胸腺腫および胸腺全摘術を施行しています。しかし術前および術中にその病型を決定するのは困難な場合もあり、病巣の広がり、PET所見、血管との関連、筋無力症の有無を考慮し、患者さんと相談して手術方法を決定しています。片側からの胸腔鏡手術の場合でも悪性度が高い場合や浸潤性の強い場合や拡大胸腺摘出術が必要な場合は両側からの胸腔鏡手術または胸骨正中切開を加える事があります。胸骨正中切開では術後1週間程度、胸腔鏡手術では術後5日間の入院が必要です。
その他の良性縦隔腫瘍においては基本的に胸腔鏡(3ポート)下腫瘍摘出術を施行しています。術後3~5日で退院可能です。
急性膿胸
急性膿胸に対して、早期(3週間以内)に胸腔鏡下手術を施行すれば術後約1週間程度で退院可能です。
急性期治療、特に1週間で改善がみられない膿胸は胸腔鏡下に洗浄し、内部の醸膿胸膜を切除することで比較的容易に根治させることが出来ます。しかし、保存的治療後に再発すると内科的治療が困難であるだけなく、外科的侵襲も大きくなり、そのメリットは半減してしまいます。早期に胸腔鏡による手術を施行し根治させることが効果的な方法を考えています。
転移性肺腫瘍
近年、化学療法や分子標的治療剤の発達に伴い転移性肺腫瘍の手術は減少傾向ですが、化学療法抵抗性の腫瘍に対して治療的な意味で外科的切除をするだけでなく、抵抗性を示す腫瘍の分子生物学的特徴を知ることで次への良策を見いだすデータとなります。低侵襲な切除と適切な化学療法/分子標的治療剤の選択で治療全体に良好な結果をもたらすことができます。
その他対象疾患
肺悪性腫瘍(肺癌、転移性肺腫瘍)、肺良性疾患(良性腫瘍、先天性肺疾患、気胸、気腫性肺嚢胞(巨大ブラ)、(炎症性肺疾患)、縦隔疾患(縦隔腫瘍、縦隔炎)、胸壁・胸膜疾患(胸壁・胸膜腫瘍、膿胸、乳び胸)、機能的疾患(手掌・腋窩多汗症など)
一方で、手術が実施できない進行肺癌やその他の悪性腫瘍に対しては、2009年5月より開設された呼吸器センターで、呼吸器・腫瘍内科と十分討議の上、適切な治療を選択し、化学療法や放射線治療を実施しています。また、肺癌などの呼吸器疾患の確定診断には胸部CTやMRI検査、気管支鏡検査、CTガイド下肺生検、胸腔鏡下肺生検などを行っております。
手術件数
原発性肺癌 | 気胸 | その他 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
2006年 | 19 | 23 | 10 | 52 |
2007年 | 39 | 37 | 32 | 108 |
2008年 | 36 | 39 | 17 | 92 |
2009年 | 20 | 39 | 24 | 83 |
2010年 | 22 | 30 | 27 | 79 |
2011年 | 32 | 12 | 32 | 76 |
2012年 | 37 | 41 | 32 | 110 |
2013年 | 44 | 34 | 22 | 100 |
2014年 | 38 | 32 | 50 | 120 |
2015年 | 52 | 51 | 43 | 146 |
2016年 | 58 | 36 | 51 | 145 |
2017年 | 51 | 44 | 53 | 148 |
2018年 | 75 | 41 | 52 | 168 |
2019年 |
66 肺葉:47 区域:6 部分:13 |
45 |
62 転移性:16 縦壁・胸壁:15 膿胸:2 その他:29 |
173 |
2020年 | 48 | 30 | 34 | 112 |
2021年 | 58 | 37 | 41 | 136 |
2022年 |
74 肺葉:58 区域:2 部分:14 |
38 |
45 転移:10 縦隔・胸壁: 6 膿胸:10 その他:19 |
157 |
※上記手術件数で2017年~2021年の間、日本呼吸器外科専門医合同委員会の基幹施設認定を受けています。
胸腔鏡手術の実際
胸腔鏡下手術とは、肋間にあけた0.5~1.5cm程度の小さな創から胸腔鏡というカメラを胸の中に入れ、モニターに映し出される映像を見ながら行う手術のことです。一言で胸腔鏡下手術といっても、その方法は様々です。0.5~1.5cm程度の小さな創3~5ヶを使用して手術を行う方法もあれば、小開胸を併用して手術を行う方法もあります。
当科で行っている胸腔鏡下手術は、0.5~1.2cmの小さな創を3つ使用しておこなう方法です。切除した肺を対外へ摘出する際には、3つの創のうちの一つを摘出のため最低限必要な大きさに広げなければなりませんが、従来の開胸手術と比較して、圧倒的に小さな傷で手術を終えることができます。もちろん傷の痛みも開胸手術と比較して小さく、非常に低侵襲な手術といえます。
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