骨盤臓器脱・排尿障害について

骨盤臓器脱は性器脱ともよばれ、中高年女性の快適な暮らしを妨げる病気です。加齢や出産により、骨盤の底を支える筋肉や靱帯が緩むことが原因といわれ、薬では治せません。以下、Q&A方式でご説明していきましょう。

Q1:骨盤臓器脱って何?

A1:骨盤にある臓器である子宮、膀胱、直腸などがだんだんと下がってきて、膣から体外に出てしまう病気をいいます。脱出する臓器により、子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤、小腸瘤、膣脱などに分かれ、これらが単独または同時に出現してきます。このような状態を総称して性器脱と呼ぶこともあります。

骨盤臓器脱の種類

Q2:その原因は?

A2:骨盤の底には子宮、膀胱、直腸などの臓器を支えている筋肉や靱帯があり、腹圧により臓器が骨盤外に出ないように支えています。お産を繰り返したり年齢を重ねていくとこの支えが緩み、子宮や膀胱、直腸が骨盤の中から膣に下がってくるのです。進行すると膣壁が反転して膀胱、子宮、直腸が体外に完全に脱出してきます。リスクファクターとして慢性的な咳や便秘を繰り返す方、仕事などでいつも重い荷物を持っている方、肥満体型の方なども、腹圧がかかりやすいために骨盤臓器脱になりやすいといわれています。

Q3:どんな症状がありますか?

A3:下腹部や膣の中にものが降りてきたような違和感や、入浴時に膣から丸いものがふれるというのが初期症状です。これらの症状は一般的に午前中よりも活動した午後に多くみられます。進行すると、常に股の間にものがはさまった感じとなり、尿や便がすっきりと出なくなります。高度になると膣壁が下着にすれて出血するなど歩行も困難となり、日常生活が大きく制限されてきます。

Q4:治療法にはどんなものがありますか?

A4:骨盤臓器脱には薬は無効で、治療の原則は手術療法となります。また、脱出が軽度の方や手術を受けられない方のためには、対症療法としてリングペッサリーを挿入する方法もあります。

Q5:ペッサリー療法(保存療法)について教えてください

A5:膣の中にリングペッサリーを挿入する方法で、あくまで補助的な矯正器具なので根本的な治療法ではありません。患者さんの体格や膣の状態に合わせてサイズを選んでいきますが、人によっては違和感を強く感じる方もいます。また、膣の炎症をおこしやすく、出血やオリモノの増加がしばしばおこるので、3~4ヶ月毎の定期的な交換が必要です。従って、何らかの理由で手術を受けられない方、手術までの待機期間の方などに使用は限られます。

ペッサリーと子宮、膣壁
図:ペッサリーと子宮、腟壁

Q6:手術療法の考え方を教えてください。

A6:子宮、膀胱、直腸、小腸はそれぞれを支えている筋肉や靱帯が単独または複合して緩むことにより膣から脱出してきます。従って緩んだところをみつけて補強することが手術の基本となります。一般的に骨盤臓器脱の初期はどこかひとつの臓器が脱出してきますが、そこだけを補強すると(例えば膀胱)、術後に他の部位に負担がかかり、別の臓器(例えば直腸)が脱出することをしばしば経験します。そこで、手術の際には骨盤底を形成する筋肉、筋膜、靱帯群をバランスよく修復することが大切になります。

Q7:手術療法にはどんなものがありますか?

A7:古くからさまざまな術式が工夫されてきましたが、現在では膣から子宮を摘出し、膀胱と膣の間の筋膜および直腸と膣を支える筋肉を補強する術式(膣式子宮全摘術+前後膣壁形成術)を基本とし、妊娠を希望する方には子宮を摘出しないマンチェスター手術が行われてきました。最近、緩んだ筋膜や靱帯の代わりに人工の素材を用いて補強するメッシュ手術が開発され、注目されています。

Q8:膣式子宮全摘術+前後膣壁縫縮術はどんな手術ですか?

A8:膣から子宮を摘出し、膣と膀胱を支えている筋膜を縫縮、最後に直腸と膣を支えている筋肉(肛門挙筋)を補強する手術です。子宮を摘出するために子宮を支えている靱帯、筋膜を補強しやすいといった利点があります。膣壁以外には傷が残らないため、美容上もすぐれています。術後は約10日間で退院となります。保険が適応となり、約22万円ほどの負担となります。

Q9:メッシュ手術とはどんな手術ですか?

A9:メッシュとは人工素材を網状に縫い込んだもので、筋膜の代用としてこれまでヘルニア手術などで広く使われてきました。人工素材だけに異物としての欠点もありましたが、素材の改良が重ねられ、骨盤臓器脱の治療にも応用されるようになってきました。特に2004年にフランスの婦人科医によって開発された方法(TVM手術)は合併症や再発が少なく、我が国でも2005年頃から行われるようになりました。

メッシュ手術

Q10:メッシュ手術(TVM法)について具体的に教えてください。

A10:TVMとは「Tension-free Vaginal Mesh」の略で、骨盤臓器を力のかからない自然な位置に矯正し、その状態で支える手術です。メッシュは本体とアームからなり、本体を膣と膀胱の間および膣と直腸の間に挿入し、アームを骨盤奥の靱帯や筋膜に貫通させて固定します。メッシュ本体は痛んだ筋膜のかわりに面として骨盤臓器を支え、アームはそれらを吊り上げる靱帯の役割を担います。痛んだ筋膜を補強に使用しないため、再発が少なく突っ張り感などの違和感が少ないという利点があります。切開は膣壁以外には股部と臀部に5mm程度4~6箇所行うだけなので、傷は全く目立ちません。術後は約7日間で退院となります。保険が適応となり、概算で23万円ぐらいの負担となります。

TVM法

(参考)メッシュとアームの固定場所: 前壁メッシュ(赤)は膀胱と膣の間に置かれ、アームは閉鎖孔を通って骨盤筋膜腱弓に固定されます。後壁メッシュ(青)は膣と直腸の間に置かれ、アームは仙棘靭帯に固定されます。

Q11:メッシュ手術(TVM法)の合併症は何がありますか?

A11:術中の合併症として出血や膀胱や尿管、直腸の損傷が挙げられます(約2%)。また、術直後には血腫(1.7~3.4%)ができることがあります。また、術後に尿失禁が出現することがあり(5%程度)、多くは骨盤底筋体操などで対処可能ですが、まれに追加手術を要することがあります。さらに頻度は少ないですが、一時的にお小水が出しにくい(尿閉)ことが生じることも報告されています。長期的にはメッシュが異物として膣壁からでてくるメッシュびらんが約6~7%におこるとされています。手術ですから予期せぬ合併症も100%ないとはいえませんが、外科や泌尿器科の応援体制など万全の準備のもと手術に臨むようにしています。

Q12:メッシュ手術(TVM法)と膣式子宮全摘術+前後膣壁縫縮術、マンチェスター手術の選択は?

A12:それぞれ利点、欠点があり、患者さんにより使い分ける必要があります。
メッシュ法は術後の再発が少ない(フランスのデータでは3~6%)ことが最大の利点です。また、子宮を摘出しなくてもいいので、子宮温存希望の方にも適しています。一方、子宮摘出を希望される方や尿失禁に対する手術(TOT手術)を同時に希望する方にも施行できます。しかし膣壁の伸展性は失われるので、妊娠希望の方には不向きです。膣式子宮全摘術+前後膣壁縫縮術は子宮を摘出することが望ましい方、すなわち閉経前で子宮筋腫がある方、子宮癌の心配がある方などがいい適応です。欠点は、弱った筋膜や靱帯を補強する方法のため、どうしても再発する症例があることです。再発率は報告によって差がありますが、一般的に20~30%の方にみられるといわれています。
マンチェスター手術は妊娠を希望する方に選択されます。子宮を支える靱帯の補強がポイントで、中には再発する症例もあるのが欠点です。
以上のことより、当科ではメッシュ手術(TVM法)を第一選択としており、子宮摘出が望ましい症例には膣式子宮全摘術+前後膣壁縫縮術を、妊娠の希望がある方にはマンチェスター手術を選択しています。

Q13:メッシュ手術(TVM法)の術後で注意する点は何ですか

A13:術後は開腹手術などと較べ早く回復し、二週間もすると身の回りのことは不自由なくできるようになります。しかしこれで安心はできません。術後最も大切なことは、骨盤臓器脱の再発予防のために腹圧をかけない生活を心がけることです。術後少なくとも2ヶ月は3kgよりも重い物を持つことは控えましょう。慢性の便秘のある方もいきむ際に腹圧がかかるので便通に注意しましょう。また、再発予防には、かかとを上げながら肛門を10回ほど反復して締める骨盤底筋体操も有効です。

Q14:メッシュ手術(TVM法)で再発したらどうしますか? -腹腔鏡下膣壁仙骨固定術-

A14:TVM法の再手術はできません。脱出の程度が強ければ、腹腔鏡または開腹下に膣壁を仙骨にテープで固定する膣壁仙骨固定術を行います。TVM法と比較して成績にも遜色はなく、腹腔鏡で行えば患者さんへの体の負担は抑えられます。

以上、骨盤臓器脱に対する再建外科について述べさせて頂きました。骨盤臓器脱をお悩みの中・高年女性は年々増加しているといわれています。その多くの方はまわりの人になかなか相談できず、結果として生活の質(QOL)を低めてしまっているのが現状です。特にメッシュ手術は体に負担が少なく、年齢の高い方も安心して受けられます。私どもも多くの症例を積み重ねてまいりました。今後のよりよい生活を実現するためにも、是非当科外来にて担当医師にご相談ください。

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