内視鏡センターの特徴
消化器系
当センターでは消化器・肝臓内科および消化器外科の医師により様々な消化器内視鏡診療が行われております。その内容は多岐にわたりますが、十分な経験と知識を有したスタッフの監督のもと、以下のような検査・治療が行われております。
消化器内視鏡検査
上部消化管内視鏡
食道、胃、十二指腸における様々な上部消化管疾患の診療に欠かせない検査として、休日・祝日を除く毎日施行しております。白色光観察に加え、画像協調機能や拡大機能を駆使し、正確で丁寧な検査を行っております。また、当院独自の検査ガイドブックを作成し、検査の質の向上と統一化を図っています。内視鏡が苦手な方には、苦痛の少ない方法として静脈麻酔を用いた鎮静下内視鏡や経鼻内視鏡を選択していただくことも可能です。内視鏡予約時、外来担当医にご相談下さい。
大腸内視鏡
日本では食習慣の変化、便潜血を用いた検診の普及などから、炎症性腸疾患や大腸癌は増加傾向にあり、大腸内視鏡検査の必要性は増えています。大腸腺腫や大腸癌は、たとえ便潜血反応で異常がなくても見つかることがありますので注意が必要です。
比較的小さい大腸ポリープや早期大腸癌の治療は、高周波スネアを用いたポリープ切除術や内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行います。2021年は大腸内視鏡検査が3386件、うちEMRは490件施行しています。また、外来でのポリープ切除(cold snare polypectomy)も積極的に施行しております。内視鏡での切除標本や生検組織は、当院病理部はもちろん、病理の経歴を持つ辰口医師が臨床病理学的な立場から詳細に検討する体制が整っています。
超音波内視鏡(EUS)
超音波内視鏡(EUS)は、内視鏡装置の先端部分が超音波プローブになっている器械を用いて、消化管や周辺臓器の断面像を描出する検査です。これにより、胃や大腸の病気の性状の診断や癌の広がりの状況、リンパ節腫大の状況を調べることが可能です。また、診断が難しいとされる胆嚢、膵臓、胆管領域の病変や、粘膜側から観察するだけでは十分な情報が得られない消化管粘膜下腫瘍(SMT)を精密に調べることが可能です。また、内視鏡の先端から細い針を臓器に刺して細胞を採取する超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)や、病変を覆っている粘膜を切開して粘膜下の組織を直接採取する粘膜切開生検も行っています。
ダブルバルーン小腸内視鏡
従来は内視鏡でのアプローチが不可能であった小腸も、ダブルバルーン内視鏡の導入により、全小腸の観察が可能になりました。小腸には腫瘍性病変のみならず、炎症性病変・血管性病変など、胃や大腸とは異なった多彩な疾患が相次いで発見されています。主に小腸疾患の確定診断や治療を目的として行っています。小腸疾患の内視鏡診断,生検による組織診断だけではなくバルーン拡張術・止血術・ポリペクトミーなどの治療も施行しています。また近年では、術後再建腸管における胆膵疾患に対してダブルバルーン内視鏡を用いた内視鏡的逆行性胆管膵管造影(DBERC)も多く施行しており、時には消化器・肝臓内科の小腸大腸班と肝胆膵班が合同でDBERCの処置にあたりながら、幅広い胆膵処置にも対応可能な体制となっております。DBERCを含んだ全ダブルバルーン内視鏡検査及び処置の件数は年々増加傾向で、2021年では200件を越える実績があります。
カプセル内視鏡
幅11mm、長さ26mm、重量3.7gのカプセル型内視鏡を内服薬のように経口的に飲み込んだ後、約10時間かけて蠕動によって消化管を通過しながらその内部を撮影することができる検査です。1回の検査で小腸全域を観察することが出来ます。飲み込むだけの検査のため、他の内視鏡検査と異なり苦痛はほとんどありません。入院が不要であり、カプセル内服後は日常活動を行いながら検査が可能です。小腸出血や小腸腫瘍などの小腸疾患を疑う場合に適応となります。小腸疾患の診断数は年々増えており、当院でも年間100例程の検査実績があります。
食道機能検査
つかえ感、胸痛等を訴える患者さんに対して上部消化管内視鏡検査を行っても特に異常を認めず原因がはっきりしない患者さんがいます。そのような場合、食道の運動機能を調べる検査である食道内圧検査を施行すると食道運動異常が見つかり、症状の原因が明らかになることがあります。食道内圧検査が施行可能な施設は少数であり、当院の内視鏡センターでは年間約200例の食道内圧検査を行っています。鼻から約4mmの細い管を食道から胃の上部まで挿入し30分程かけて食道運動機能を調べます。
食道内への胃酸逆流などにより胸やけをきたす疾患に胃食道逆流症(GERD)があります。GERD患者さんの中には内視鏡検査で異常を認めず、治療を行っても症状が改善しにくい患者さんも存在します。そのような場合、酸逆流以外の弱酸逆流や空気逆流が症状の原因である場合があり、食道多チャンネルインピーダンスpH(MII-pH)モニタリング検査を行うことでその原因を調べることができます。鼻から約2mmのカテーテルを食道から胃の上部まで挿入し、24時間かけて酸逆流に加え酸逆流以外の弱酸逆流や空気逆流と症状の関連を調べることができます。当院の内視鏡センターでは年間約50例の食道MII-pHモニタリング検査を施行しています。
消化器内視鏡治療
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)・腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)
高周波スネアを用いた方法では切除が難しい早期発見の消化管腫瘍に対しては、身体への負担がより少ない内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が選択肢となります。当院では消化器・肝臓内科の専門チームが食道、胃、十二指腸、大腸合わせて年間300例を超える治療を行っております。病変の大きさに関わらず一括切除が可能なESDを選択することで、リンパ節への転移リスクが極めて低いと考えられる早期癌に対して手術と同等の根治性が得られます。同時に、出血・穿孔・狭窄などの偶発症をできるだけ起こさないための様々な工夫に努めており、全国に先駆けて導入した内視鏡的手縫い縫合法によって病変切除後の創部を閉鎖することで術後出血の可能性を低くする試みも行っております。また、当院ではESDにクリニカルパスを導入し、患者さんが予定表に沿った入院加療をお受けになっていただけるよう心掛けており、2020年度は94%の患者さんが予定通りの日程で退院されております。
最近ではこのESDテクニックを応用し、粘膜下腫瘍などより深い位置にある病変に対しても内科と外科とのコラボレーション治療である腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)により可能な限り身体に負担のかからない局所切除法をご提案しております。当院では2018年よりこの治療法を本格的に導入し、2022年までに60名を超える患者さんが当院でLECSをお受けになっています。
経口内視鏡下筋層切開術(POEM)
つかえ感をきたす食道運動異常症の代表的な疾患の一つに、食道と胃の境界に存在する括約筋がうまく開かなくなる食道アカラシアがあります。食道アカラシアの最新治療として注目されている方法が、従来の外科的筋層切開術を経口内視鏡下に行う経口内視鏡下筋層切開術(POEM)です。POEMは体の表面を傷つけることなく治療できる低侵襲な内視鏡治療です。当院では2019年よりPOEMを保険診療として開始し、治療を行った患者さんの数は2022年現在で70名を超えています。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は胆道系疾患や膵疾患に対する代表的な内視鏡的アプローチ法です。近年はMRI検査のひとつであるMRCP検査を利用できるため、検査目的のERCPはその必要性を吟味して行われています。その一方で、高齢化や医療技術の進歩により、総胆管結石や腫瘍による黄疸に対する内視鏡的減黄術の機会が増加しています。総胆管結石に対しては内視鏡的乳頭切開術(EST)および採石術により多くの方が外科的手術を避けられるようになりました。悪性肝胆膵疾患による閉塞性黄疸に対しては内視鏡的ドレナージ術(ENBD)または内視鏡的胆道ステントの挿入術(EBD)による治療を行っています。当院では年間約600例を超える内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を行っています。さらに、診断の難しい胆管腫瘍や巨大な総胆管結石などに対しては、最新の胆道鏡を用いて直接胆管内を観ながら精密検査を行っています。胆管内の腫瘍を目視しながら検体を採取することや、電気水圧衝撃波胆管結石破砕装置(EHL)と呼ばれるデバイスを併用し、衝撃波により結石を砕いて治療することも可能で、検査および治療が困難とされる患者さんにも最適な診療を提供しております。
内視鏡的食道静脈瘤治療
食道静脈瘤とは食道粘膜の静脈がモコモコと膨らんでコブのようになる病気です。主に肝硬変などの慢性肝疾患で合併します。食道静脈瘤があっても通常自覚症状はありませんが、静脈瘤が大きく膨らんでくると、突然破裂し大量出血を起こし、その際は生命の危険が生じる場合があります。当院では出血の危険が高い静脈瘤に対して予防的に、また出血例に対しては緊急的に内視鏡的治療を行っています。内視鏡的な食道静脈瘤治療には主に下記の2種類があり、それらを単独もしくは組み合わせて治療しています。
・食道静脈瘤硬化療法(EIS)
内視鏡の先端から穿刺針を出し、食道静脈瘤を穿刺して硬化剤を注入する方法です。硬化剤は静脈瘤内に血栓をつくり、血流を遮断する効果があります。また血管の周囲に硬化剤を少量ずつ注入する方法もあります。これらを併用し最終的に静脈瘤を完全に消失させ、また再発を防止します。
・食道静脈瘤結紮療法(EVL)
内視鏡の先端に専用のゴムバンドを装着し、このゴムバンドで食道静脈瘤をしばり静脈瘤をつぶす方法です。この方法は手技が簡単であり、特に出血例での緊急止血では第一選択とされています。また、胃静脈瘤に対しては内視鏡的硬化療法やバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)も行っています。当院ではこれら様々な治療の中で個々の患者さんに最適な治療を選択し治療を行っています。
緊急内視鏡
当院は救急指定病院であることから、救急疾患への対応が求められています。当センターでは、出血性胃・十二指腸潰瘍や大腸憩室出血を中心とした様々な消化管出血や異物(薬のPTP包装や入れ歯)の誤飲、胆管炎に対するERCPなどに24時間365日対応できるよう環境を整えています。
緩和医療に対する内視鏡治療
高齢社会の到来および在宅医療の普及により、経腸栄養を必要とする機会が多くなりました。当センターでは、内視鏡的胃瘻造設術(PEG)によって在宅診療の可能性を広げています。また、がんの浸潤による消化管狭窄により食事摂取ができなくなることがありますが、当センターでは内視鏡的ステント留置術を行うことにより、生活の質の改善に努めています。
呼吸器系
呼吸器内視鏡(気管支鏡)検査は、肺や気管支に病気の疑いがある場合に、気管支鏡という細いカメラを用いて気管・気管支の観察、細胞や組織の採取による病理組織学的診断、細菌培養検査などを行うものであり、病気を診断するために必要な検査です。
当院は日本呼吸器内視鏡学会認定施設であり、気管支鏡件数は年間400件をこえ、胸部悪性腫瘍、間質性肺炎などのびまん性肺疾患やその他の呼吸器疾患、呼吸器感染症などの多岐にわたる症例に気管支鏡検査を適用しています。また現在の肺がんの治療においては、上皮成長因子受容体(EGFR遺伝子変異)に代表されるdriver geneと呼ばれる発がんに関わる分子をターゲットとした分子標的薬が重要であり、採取した細胞からそれらの遺伝子異常を調べ、治療法を決定いたします。またがん細胞上に発現するPD-L1と呼ばれる物質を調べることにより免疫チェックポイント阻害薬の使用を検討することも重要となっています。当院は地域がん診療連携拠点に指定されており、さらに2019年度より、がんゲノム医療連携拠点病院としてゲノム診療に携わることになります。次世代シーケンサーを用いたゲノム解析を行うことにより、患者さん一人一人に合った治療を提供できるようになります。その際にも気管支鏡検査による、遺伝子解析に利用できる良質な検体の採取が求められます。
また当院では気管支鏡の技術を生かし、呼吸器内科と呼吸器外科で協力体制を組みながら、局所麻酔下胸腔鏡検査、難治性気胸に対する気管支充填術、難治性喘息に対する気管支サーモプラスティ、気道狭窄に対するステント留置術、中枢病変の悪性腫瘍に対する光線力学的治療などの処置も積極的におこなっています。
気管・気管支の観察、気管支粘膜からの生検採取のみの場合は主に外来通院、その他の気管支鏡検査・処置は原則入院でおこなっています。
気管支鏡検査
内腔観察・直視下生検
胸部レントゲンやCTなどの放射線画像では判断が難しい気管・気管支粘膜の状態を直接観察し、病変の有無を調べます。粘膜に病変が疑われる場合には、細胞や組織を採取します。
気管支肺胞洗浄(BAL)
気管支鏡を用いて、肺の一部に生理食塩水を注入した後、その洗浄液を回収し、成分を分析することにより診断や病態を明らかにするための検査です。
経気管支肺生検(TBLB)
気管支鏡で直接観察が困難な肺の末梢病変の確定診断を得るための検査法です。上下・左右方向から透視が可能なX線撮影装置と気管支鏡を用いて、病変の細胞や組織を採取します。
当院ではさらに、プローブの先端を冷却しその先端部が病変に接触することにより周囲の組織を凍結させ、そのまま引きちぎることで検体採取を行う、クライオ生検も導入しております。クライオ生検により、挫滅が少なくより大きな検体を採取することが可能となり、間質性肺炎のようなびまん性肺疾患の診断に有用とされております。
ガイドシース併用気管支腔内超音波断層法(EBUS-GS)
肺末梢の小さな病変ではX線透視での確認が困難であったり、採取手技による出血や気管支粘膜の浮腫により同一の気管支への到達が困難となることがあります。細径の超音波装置を軟らかい管(ガイドシース)に挿入して病変まで誘導することにより、超音波での病変の同定が可能となり、またガイドシースを固定しておくことにより同一部位からの複数回の検体採取が可能となります。当院ではEBUS-GSを適宜併用することにより診断率の向上に努めています。
超音波気管支鏡下経気管支リンパ節穿刺法(EBUS-TBNA)
超音波が付属した気管支鏡を用いて気管・気管支の壁外にあるリンパ節(縦隔・肺門リンパ節)を観察し、気管・気管支壁を貫いてリンパ節に針を刺して、細胞や組織を採取する検査です。肺癌の診断・臨床病期分類、その他、縦隔腫瘍・サルコイドーシス・リンパ節結核などの診断にも有効です。
局所麻酔下胸腔鏡検査
胸腔内の病変(腫瘍、胸水貯留など)を有する方に対して、局所麻酔下に胸壁より胸腔内に直接気管支鏡を挿入して、病変部の観察や検体採取を行う検査です。主に胸水精査のみでは診断が困難な癌性胸膜炎、悪性胸膜中皮腫、結核性胸膜炎などに有用です。
気管支鏡治療
気管支充填術(EWS)
肺に穴が開くことにより空気が漏れて肺がしぼむ病態(気胸)において、肺の穴と交通する気管支に対して、気管支鏡を用いてEWSというシリコン製の詰め物で塞ぐ治療法です。全身状態や呼吸機能が悪いために全身麻酔下の外科的治療が行えない、難治性の気胸に対して有用です。
気管支サーモプラスティ
内科的治療に抵抗性の重症喘息に対して、気管支鏡を用いて電極付きカテーテルを挿入し、気管支でバスケットを開いて高周波電流による熱を加えることにより、肥厚した気道平滑筋を減少させることで喘息症状を緩和させる治療法です。気管支を右下葉・左下葉・左右上葉の3回に分けて、3週間以上の間隔をあけて手技をおこないます。
気道狭窄への焼灼術・ステント留置術
腫瘍や炎症などのために気管・気管支が狭くなる病態に対して、様々な材質のステントという筒を挿入して空気の通り道を確保する方法です。局所麻酔下で通常の気管支鏡を用いて施行する場合と、全身麻酔下で硬い筒状の内視鏡(硬性気管支鏡)を用いて施行する場合があります。狭窄の原因となる病変に対して、高周波治療やレーザー治療にて焼き切る方法(焼灼術)を併用することもあります。この治療により特に進行肺癌の患者さんのQOLが期待されます。
光線力学的治療(PDT)
まず腫瘍親和性光感受性物質という薬の静脈注射を行います。この薬は正常の気管支などに比べてがん細胞に多く取り込まれる性質をもち、同部位に低出力レーザー照射を行い、化学反応をおこしてがん細胞を死滅させます。この治療法は、いわゆる「焼灼」ではなく、安全で低侵襲でがん細胞を選択的に障害することが可能です。PDTは、中枢側の気管支(気管支鏡で観察できる部位)に発生する早期肺癌に対する「根治的治療法」として、気道狭窄を呈する進行肺癌に対する治療法として保険収載されています。
末梢小型肺癌に対するPDT
末梢肺野の小型肺癌に対する新しい治療法として、世界で初めて当院で施行しました。現在まで、臨床研究として国からの補助金で施行しておりました。低肺機能で手術ができない方、間質性肺炎があり放射線治療もできないような方を対象に治験を予定しております。