日本医科大学多摩永山病院の
「旧多摩ニュータウン事業本部跡地への移転・建替え計画」を断念します
~ 地域医療への貢献は今後も継続します ~

学校法人日本医科大学は、日本医科大学多摩永山病院の旧多摩ニュータウン事業本部跡地への移転・建替え計画を断念しましたのでお知らせいたします。なお、現病院の診療は継続しながら、多摩市内にお住まいの方を含めた南多摩医療圏の地域医療のために、今後の方向性を探っていくこととします。


Ⅰ.多摩永山病院の移転・建替え計画について

1. 移転・建替え計画の必要性

昭和52年7月に現病院を開院してから約47年が経過しました。現病院は、施設設備等の老朽化や狭隘化が進む一方で、医療を取り巻く環境が日ごとに進歩しているため、未来を見据えた最新の医療環境に対応していく必要から、建替えが求められています。また、現病院での診療を途切れさせないためには、別の候補地を策定し移転することが地域医療の空白を最小限に抑えられるなどの理由から、同じ敷地内での建替えではなく、移転して建替えるという考えに至りました。

2. 移転・建替えに伴う支援の要望(7つの要望事項)

病院建設には一般的な建造物より多額の費用を要するため自己資金のみで負担することは難しく、各私立大学では、地域医療への貢献の観点から、自治体から資金協力を得ることが一般的です。特に各種政策医療など不採算部門を持つ病院を建設する際には、自治体からの支援は必須条件となっています。また、新病院候補地として多摩市からご提案いただいた旧多摩ニュータウン事業本部跡地は敷地の約50%が斜面地であることから、通常よりも土地の造成等に費用を要することに加えて、隔地駐車場の確保や永山駅からの来院者動線の整備等、病院建設に向けて解決すべき重要課題が山積しています。

そこで、多摩永山病院の移転・建替えの実現に向けて、本法人においても多摩市に対し、令和2年11月に、新病院建設に関する建設費や土地の造成・周辺インフラの整備に対する財政的支援等を含む、7つの要望事項を提案しました。
7つの要望事項の詳細とそれに対する多摩市の回答については、後述します。


3. 建設費の高騰

旧多摩ニュータウン事業本部跡地での新病院建設費の試算額は令和5年12月時点で約280億円となっています。新型コロナウイルス感染症をはじめとした予想を超えた社会環境・経済情勢の変化や、それに伴う物価上昇などの理由により、建設費が急激に高騰したことから、令和2年12月時点の試算額約154億円と比較すると約126億円も上昇しました(約1.8倍)。(図1)


図1:建設費試算額の推移

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4. 多摩永山病院の収支状況の見通し

現病院の令和5年度の単独累計収支は1月時点で約2.7億円のマイナスとなっています。
更に新病院を建設した場合、
・アフターコロナにおける感染対策
・医療DXの整備など
これらの新たな課題に対応するためには、最低でも近隣四市あるいはその他の自治体と同等程度の財政支援が必要不可欠です。
本来ならば、公的医療機関の担うべき不採算部門を有するだけではなく、
・エネルギー価格の上昇
・医療の高度化に伴う医療設備・機器等の高額化
・建物の減価償却 など
こういった様々な要因が病院経営にとって後々まで大きな負担となります。
開院からこれまでの約47年間と同様に、長期的事業運営を検討した時、本法人が独力で新病院を建設しその経営を継続することについて、見通しが全く立たない状況です。



5.南多摩医療圏における公的支援の状況

多摩永山病院が属する南多摩医療圏の他市では、地元の基幹病院に対し土地・建物への支援に加え運営等に対しても約7億円~約16億円(年間)規模の支援を行っています。多摩永山病院への支援は他市の事例と比較すると格差があります。新病院を建設した場合、施設設備の整備以外にも高額医療機器等への投資もあることから、同等程度以上の支援を必要としています。


「南多摩医療圏(*)の公立病院、大学病院」
* 八王子市、町田市、日野市、多摩市、稲城市の五市で構成される二次保健医療圏を指す。

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「各自治体から上記病院への繰出金・補助金の状況(平成29年度~令和3年度)」
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引用元:町田市、日野市、稲城市 「普通会計の状況(市町村)」、八王子市「主要な施策の成果・事務報告書」
(八王子市の令和3年度は新型コロナウイルス感染症患者受入体制整備事業補助を含む)
東京都立病院機構「地域医療確保事業会計 資金収支計算書 内部取引内訳」
※ 多摩市は、多摩永山病院への新型コロナウイルス感染症対策事業補助金を掲載


6.移転・建替えに伴う支援の要望(7つの要望事項)とそれに対する多摩市の回答

上記3~5にて説明しました、予想を超える「建設費の高騰」、「多摩永山病院の収支状況の見通し」の厳しさ、そして「南多摩医療圏における公的支援の状況」を踏まえ、本法人が提案した7つの要望事項を多摩市に包括的に受入れていただくことこそが、多摩永山病院の移転・建替えの実現には必要不可欠と言わざるを得ません。その7つの要望事項は、具体的には以下の通りです。


1 2026年度の新病院開院を努力目標とし、最速のスケジュールに沿った諸調査・工事等の実施及び協力
2 新病院の建設に滞りなく着工するための旧多摩ニュータウン事業本部跡地に係る一切の造成・平坦な土地への整備等の負担(測量・地盤調査、土砂災害警戒区域解除工事を除く20億円相当)
3 旧多摩ニュータウン事業本部跡地の無償貸与
4 新病院の建設にあたり、建設費に対する財政的支援(補助金)
5 旧多摩ニュータウン事業本部敷地の約50%が斜面地であり、駐車場整備が困難であるため、隔地駐車場(附置義務駐車場台数の半数)確保に関する支援及び協力
6 永山駅から新病院への患者動線整備(西側都道からのエレベーター、エスカレーター設置等のバリアフリー動線等)、また、公共交通機関(バス等)の新病院敷地内への引き込みに関する支援及び協力
7 新病院建設を一つの契機とし、現多摩永山病院跡地の利活用を含めた諏訪・永山まちづくり計画の着実な進展


要望事項2(土地整備負担)、要望事項3(旧跡地の無償貸与)及び要望事項4(補助金)は、「建設費の高騰」、「多摩永山病院の収支状況の見通し」を踏まえると、このような財政上のご支援を頂くことが、移転・建替えの必須の前提条件となります。
要望事項5(駐車場確保)、要望事項6(患者動線及びバス路線確保)及び要望事項7(まちづくり計画)は、移転・建替え後の新病院のアクセス向上の鍵であり、来院者にとっての利便性の良さが「多摩永山病院の収支状況の見通し」を好転させてその経営を持続させる重要な要因になることから、これもまた必須の前提条件となります。

以上の通り、7つの要望事項は、多摩永山病院の移転・建替えを実現するための必須の前提条件として、多摩市に提案させて頂いた事項なのですが、長年に渡る協議の結果、多摩市からは、「多摩市の財政状況に鑑みて、要望事項の包括的な受入れは出来ない」とのご回答がありました。
更に、「南多摩医療圏における公的支援の状況」や、これまでの多摩永山病院の実績等を踏まえ、近隣他市と同程度の運営費補助等を念頭に置き、自治体としての財政措置の検討を多摩市にお願いしましたが、多摩市としては他市と同程度の補助は考えていない旨のご回答がありました。


7.結論及び補足(私立大学が病院を建設する際の状況)

上記6の通り、多摩永山病院の移転・建替えの必須の前提条件であった7つの要望事項の包括的な受入れについて、多摩市にご承諾いただくことができなかったことから、本法人としては、上記3の「建設費の高騰」と上記4の「多摩永山病院の収支状況の見通し」の問題解決に向けて別途の方策を鋭意検討しましたが、移転・建替え資金の調達目途が全く立たないことに加えて、新病院を建設してもその運営を長期間継続することは不可能と判断するほかはないため、残念ながら、この移転・建替え計画を本法人としては断念せざるを得ないという結論に至りました。

  

また、上記5の「南多摩医療圏における公的支援の状況」において説明した通り、私立大学が病院を建設する際、誘致先の自治体から多額の支援を受けているというのが、南多摩医療圏だけでなく広い地域に共通する現実です。

このような現状を踏まえた場合、多摩永山病院の移転・建替えにおいても、7つの要望事項のような、新病院の建設及び経営維持において必要となるご支援を、地方自治体からご提供いただくことが、南多摩医療圏において新たに病院を建設し、その経営を継続するうえで必須の前提であることは、ご理解いただけるものと考えております。


Ⅱ.今後について

日本医科大学多摩永山病院の移転・建替え計画の実現に向けて、多摩市と本法人は、お互い真摯に協議を継続し、検討を重ねて参りました。しかし、双方の財政状態、更には社会経済情勢の変化等により、残念ながら計画を断念せざるを得ませんでした。
総合的に見て、移転・建替えに必要な資金調達とその後の経営安定化の条件が整わないためこの計画を断念しますが、南多摩医療圏の地域医療に貢献するべく今後も検討していきます。


引き続き、

南多摩医療圏の地域医療に貢献するため最大限の努力をいたします


本件問い合わせ先

学校法人日本医科大学 総務部広報課 
Eメール:kikakubu@nms.ac.jp