実際の疾患病理標本でみるマクロファージと周囲の細胞との相互関係の解析例(マクロファージ:赤、筋線維芽細胞:青)恩師、本庶佑教授(2018年ノーベル生理学医学賞受賞、右)と。バイオマーカー研究支える患者検体バンク16(本研究に関しては総合科学雑誌Natureオンライン版に、特集企画Nature Index Cancerの一部として、記事広告「Gaining ground in the war on cancer」が掲載されました。) どうしても研究をやりたい一心で、臨床医をやめて研究者を志し、京都大学の本庶佑教授の研究室の門をたたきました。大学院生として、生まれてはじめて行った研究は幸運にも免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブ(PD-1抗体)の開発につながりました。2014年に新薬として承認されたニボルマブは世界的ながん治療の革命を起こして、手術、化学療法、放射線療法では治すことのできないがん患者さんの命を救うことができるようになりました。いつか自分の研究が医学に貢献する生体内におけるPD-1抗体(左)とPD-L1抗体(右)の分布。緑色は抗体、青色はB細胞、赤色はマクロファージを示す。PD-L1抗体はマクロファージによって取り込まれる。 あらゆる生体の反応には、必要な細胞が必要な場所に向かう「細胞遊走」という現象が関わっています。様々な組織でつくられる「ケモカイン」などの遊走因子に、この受容体を発現する細胞は反応して遊走し、組織へ浸潤・集積することによってその場所で刺激を受けて性質が変化(「活性化」)します。このような遊走をきっかけとした一連の反応は生体の維持防御に必要ですが、その反応が過剰になると正常な組織を傷つけて疾患の原因になることがあります。特に、白血球の一種であるマクロファージは免疫系の中心的な役割を果たし、その過剰な遊走や活性化は多くの疾患の進行に深く関与しています。 私たちは、細胞の遊走・活性化の強度を調節するカギとなる特定の標的分子を制御することで、炎症性疾患やがん、さらには慢性的な炎 がんの早期発見は、がん死亡を減らすためには必須です。特に膵がんをはじめとした難治がんの早期発見は人類が乗り越えるべき「いまだ克服されていない医療ニーズ」の一つです。血液などを利用して難治がんを早期発見できれば、場所を選ばず特殊な機械を使わない簡便な検査法として医療の均てん化や標準化に深く寄与すると思います。 近年、ヒト遺伝情報やタンパク質発現情報を網羅的に一斉解析するゲノム研究やプロテオーム研究が可能になってきています。私たちは、手術可能な膵がんや膵がんになりやすい人(膵がん高リスク群)を診断する診断指標(バイオマーカー)を探索し、臨床実装するプロジェクトを進めています。患者さんから頂いた血液を質量分析という方法を用いて、タンパク発現プロファイルを解析したところ(2002年ノーベル賞技術)、膵がん患者さんと健康な人の間で変化する特殊なタンパク質の修飾を発見することができました。日本医科大学や国立がん研究セことを夢見て研究者になりましたが、思いがけず早期に夢が実現して、医師としても、研究者としても、この上ない喜びを感じています。この貴重な経験を通して、ノーベル賞は雲の上の出来事ではなく、私のような平凡な人間でもごく身近に起こり得ることを実感しました。 学生さんには夢を持って挑戦し、研究の楽しさを知ってもらいたいと考えています。科学的な疑問は尽きることがありません。不思議なことに、免疫チェックポイント阻害剤はよく効く人と効かない人がいます。現在は、「免疫応答の個人差がどこから生まれるのか」というテーマに興味を持って、新しいがん治療と診断法の開発に取り組んでいます。ぜひ一緒に、研究してみませんか?症によって組織が固くなってしまう線維化に対する効果的な治療法となる可能性を見いだしました。これまでの治療法に比べ、臓器・疾患横断的な共通メカニズムを対象とすることでより広範囲で効果的なアプローチを提供できる可能性を秘めています。学内外の臨床グループと連携することで、患者さんの病理標本を用いて、疾患組織上での分子メカニズムの解明研究と、これらの知見を治療に活かすための応用研究に取り組んでいます。ンターなどと協力して、この変化を簡便にとらえる検査キットを開発し、日本の厚生労働省から膵がん診断を補助するバイオマーカーとして体外診断用医薬品の承認を受けました。2024年から公的健康保険で本検査を受けることが可能になっています。 私たちは、難治がんに立ち向かうため基礎的探索研究から医薬品の臨床開発研究までをシームレスに行います。難治がんとの闘いは、日本の研究機関だけでできるものではありません。米国の国立がん研究所やドイツがん研究センター、国際がん研究機関などと緊密に連携しながら、オリジナルな研究で発見された医療シーズを実際の医療に昇華してまいります。最初の1歩を踏み出すことで、がん医療の新たな道を拓きたいと思います。がん治療の革命 ― 免疫チェックポイント阻害剤の開発 ―細胞生物学分野 大学院教授細胞の遊走・活性化の強度を調節するカギを探る形態解析研究室 教授オリジナルで医療を創る。がんとの闘い ― 難治がんの早期発見にむけて ―生体機能制御学分野 大学院教授岩井 佳子遠田 悦子本田 一文
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