15 細胞が機能を維持し続けるためには、核酸、タンパク質、脂質をはじめとする様々な物質の「合成」が重要であることは容易に想像できます。一方で「分解」についてはどのようなイメージを持っているでしょうか。実は、細胞は不要になった物質や細胞に害を及ぼすような物質を選別して分解する機能を持っていて、常に細胞内の品質管理を行っています。 私たちの研究室では、このような細胞内品質管理の中心を担っている「オートファジー」について研究しています。特にタンパク質の会合体を狙って分解する選択的オートファジーに着目しており、その破綻は神経変性疾患やがんをはじめとする様々な疾患に関連することから医学分野でも重要視されています。私たちは、選択的オートファジーの標的タンパク質(その多くは疾患に関連するタンパク質)が特殊な自己会合体である液滴を形成し、この液滴がオートファジーによる分解とエクソソームによる分泌の2つの経路に移行することを見出しています。疾患に関連するタンパク質の液滴・会合体の動態とその運命について、細胞内分解と細胞外分泌という2つの観点から明らかにしたいと考えており、蛍光イメージング技術やゲノム編集技術に加えて分子動力学シミュレーションなどの先進技術を導入し、液滴選択的オートファジーの分子メカニズムと生理的意義の解明を進めています。また、新規の液滴型分泌基質・バイオマーカーの同定や神経変性疾患の診断法の開発といった医学応用まで視野に入れた研究を目指しています。《図1》ヒト培養細胞(HeLa細胞)でオートファゴソームタンパク質(赤)とリン脂質PI4P(緑)を蛍光イメージングするとリング状のオートファゴソーム(赤+緑)と球状のオートリソソーム(赤)が観察される。 《図2》フェリチン液滴(緑)を腔内小胞に取り込んだエンドソーム多胞体(赤)を3D-CLEM法により同一視野で電子・蛍光イメージングした様子(これらの腔内小胞が液滴内包エクソソームとして分泌される)。 《図3》選択的オートファジーの標的となる疾患関連ユビキチン陽性液滴(緑)とフェリチン液滴(赤)をHeLa細胞で観察した様子。「アカデミズムの自由」という理念のもと、医学はもちろん、分野を超越して様々な研究者の共創から、医療・医学の新しい地平線が提供される時代が到来しています。大学内はもちろん、東京理科大学、早稲田大学などとの共同研究からも、創造的な研究成果が続々と誕生。ここでは、そんな研究の一例について紹介します。図1図2図3オートファジーによる細胞内品質管理と疾患への関与遺伝子制御学分野 大学院教授医療への挑戦:特色ある研究山本 林
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